小説2

時は経った。何もない暗いどん底は果てしなく広く救いもない。君はそうは思わないか?
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 すべての戦いから7000と371年が過ぎた。すべての悪は死に絶え、何もなくなった。

 何も
だ。

 かつて勇者と讃えられ賞賛された者がいた。名はカービィという。戦う事がなくなり、何もかもまっさらな状態になった。周りの仲間は皆散り散りになり、かつての英雄を知る人物はいなくなった。

「カービィさん、カービィさん」

 扉をノックし、プププランドの住民二人はその人物が出てくるのを待った。だが、反応はない。ノックをした人物はため息をついた。

「…おらんか」
「あの…」
「なんじゃ、若いん」
「その…ここのお宅のカービィさんって、どんなヒトなんですか? 僕、まだ一度も見た事がないんですが…市場でも見た事ないですよね」
「あー…」

 男は少し困ったように若い男を見た。扉は開く気配もなく、カーテンが締め切られて中の様子も見れなかった。

「簡単に言えば『プー太郎』だ」
「はぁ…」
「わしらが来る以前よりずっと昔から住んでいるが、姿を見た事があるのも遠目からで5度しかない。働く様子もなきゃ、ある人物が見た話だと木の下で昼寝をしてたとか。今時、そんな事流行らんっちゅうに。時代が遅れてんだよあのヒトは。何千年も昔ならやっても平気だったが、いまの時代は働いて役所に金を収めるのが常識じゃ。それは年寄り連中でも知っとるしやっとる。だが、あのヒトは時代が止まっとんか知らんが一切触れてこんのよ。土地代だってもらわにゃならんのに一銭も出しやしない。変わりもんの若もんさ。ったく…魔物が化け物でも襲ってきて死んじまえば…」
「ちょ…滅多な事を言うもんじゃありませんよ…。それに、魔物も化け物も、この世界にいるわけないでしょう? 何千年前の話ですか」
「それもそうだなぁ」


 わはは、と楽しそうに笑いながら二人は家を後にした。二人が帰った数秒後にカーテンが揺らぎ、窓から外の様子を睨みつけるように眺めた。

「…なにが、魔物が、化け物がいない、だ。平和ボケなんて…しちゃってさぁ」

 部屋は灯りは窓の外から差してくる太陽の光がひとつ差してくるだけだった。かつての英雄、カービィは歯をキリキリ鳴らしながら外を、街に向けて睨んだ。

「誰のおかげでこんな平和な世の中になったと思ってるんだ…! 魔物がいないのも僕のおかげだぞ…僕が全部倒して倒して…すべて消し去ったからこんなに平和なんだ! なのにあいつ…僕をプー太郎呼ばわりだと? 笑わせないでくれ。新たに来たお前らがこの地を勝手に開拓してルールを決めたんだろ? 先住民のルールを破壊した時点で…お前らが魔物だ! 化け物だ! ここは僕の地だ。僕が僕のルールに、かつての…プププランドのルールに従う事の…なにが悪いんだ……う、…ぅ……ううう…う…」

 面影などなかった。
 城は廃城と化し、城下町などなくなり、変わりに別の場所に街が作られ、平坦な地になんの協調性もない平坦な家が並び、小さな建物がポツポツ並んでいた。
 当時のカービィは、自分が賞賛される事の意味を求めなかった。悪を倒す事が茶飯事となり、記録に残される事も爪痕を残す事もなかった。この事を知ってるのはかつて住んでいた当時のプププランドの住民だけ。その住民たちも順々に死んで行き、カービィのやった事を知る人物も指で折って数えるほどでしかなくなった。

「………………きっと……」
「僕が全部の悪者を倒したなんて言っても…誰も信じないよね…」


 扉を開き、近未来的乗り物を大勢の人物が乗り通う街を眺めた。皆忙しそうに、余裕がなさそうで、空気だけが薄くなるような光景を眺め、カービィは廃城へと向かいだした。
 廃城には、誰も近づかない。怖いもの見たさでくるものがたまにいる程度で、立派な心霊スポットとなっていた。城下町も寂れてヒトの気配などなく、あるのは風の音と犬の小さな鳴き声くらいだった。
 カービィは堂々と歩いた。幾度と来る肝試しに来たものたちは皆肩をブルブル震わせ足をすくませて、城下町でいつも帰っていた。城に入るには鍵がかかっており、一度としてその侵入を試みた人物はいないのだという。だが、カービィは違う。他人にとっては恐怖でしかないこの街すらも、カービィにとっては愛おしい故郷なのだから。カービィは慣れた足取りで、この城に入るための隠し通路を見つける。そこは下水道とも取れるほど足元に水がたまり、壁には苔が生え蝋燭は当然ながらすべて消え、暗い道だけがゴウゴウと広がっていた。カービィは物ともせず、水に足を入れバチャバチャと進んだ。コウモリの鳴き声もしたが、動じない。
 暗い暗い道を進んだところに、重い扉がある。そこを押すと、城の広間に出る。そこには、このプププランドを征していた自称王があった。

「久しぶり。デデデ」

 カービィは軽い足取りでペタペタと玉座の肘掛に寄りかかり、ねーえ。と甘えた風に王に向かって呟いた。

「僕の愚痴聞いてくれない?」
「あのさぁ、さっき役所?の連中が僕の家に来たんだよ。僕そのとき居留守使ってさ、会話を聞いてやったんだよ」
「そしたらさ、若い男の子に僕をプー太郎だって吹き込むんだよ! 今こんなに平和に暮らせるのは僕のおかげだっていうのに、意味わかんないよね」
「多分今日来たのもお金を徴収しに来たんだよ。税金?ってやつ?」
「あんまり昔と言えたことじゃないけど、今の住民は凄まじいよ。口を開けばお金お金。デデデだけがいつもああ喚いていたのに、今時全員がそれを口走るんだよ。怖い世の中になったもんだよね」
「排気ガスってのはデデデだけじゃなくって全員で出してるし…この星はきっともうだめだ。新住民の手によってすぐ終わるよ。この星は…ポップスターは真っ黒のカビみたいになってボロボロに崩れるよ」

 一通り愚痴り終わると、カービィはデデデの顔の方に見上げた。一切動かない。それに対し、カービィはいたずらに頭を突いた。すると、デデデの頭がゴトンと落ち、ひび割れ後頭部の骨が粉々に砕け散った。

「ああ! ご、ごめん、デデデ!」

 カービィは急いで散った骨をかき集め、愛用にしていた帽子を被せて割れた部分を隠した。そしてそっと頭を元の位置に戻し、一息ついた。

「………ね、デデデ」
「僕ばっかりが喋ってちゃつまんないよ」
「何か喋ってよ」
「ねぇ」
「…デデデぇ…」
「一人なんて…やだよぉ…」





  かつて勇者と讃えられ賞賛された者がいた。名はカービィという。戦う事がなくなり、何もかもまっさらな状態になった。周りの仲間は皆散り散りになり、かつての英雄を知る人物はいなくなった…





了     



 
     

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