小説

□目線と声は疎ましい
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 どこに行っても僕に落ち着ける場所はない。僕の背後は常に誰かにぴったりとつかれている。

「…」

 僕が後ろを振り向いてもその姿はない。でも感じる。強烈なまでの眼差しが。

(やっぱり今日も着いて来てる…。暇人かよ)

 今日も、と言ったけど、こんなことが起き始めたのはほんの数日前からだった。あれは、確か城でワドルディが僕を呼び止めた時…。



『(カービィさん、最近物騒ですから、あまり暗くなるまで夜は出歩かないようにしてくださいね)』
『物騒って、…何かあったの?』
『(よくお散歩してるのに世間知らずですね。ある意味ホッとしますよ…。
 近年ですが、よくこの村の住民がストーカーに襲われ、精神的病に怠るというケースが発生しているみたいです。暴行・乱暴・殺人…。今年はまだその事件は耳にしておりませんが、もし、それらしい影や犯行にあった場合は僕達にご報告くださいね。もしかすれば、その犯人、未だ見つかっていないので同じ人物の可能性だってあり得るのですから)』
『へぇ、なんだ、じゃあ僕は大丈夫だね。僕って好かれる要素ないし!』
『(それって鈍くて気付いてないだけでは…。兎に角、お気を付けくださいね)』

 

 それからだ。ワドルディが言ったその日の夜から僕の後ろに付きまとい始めたのは。


 *


『(何だろう、なんか妙に視線を感じる)
 …あー』

 さっと後ろを振り向いた。と、同時にガサッという音もなった。…まったく、こんなことで僕がビビるか。

『ワドォ…、そんなんで僕は怖気づかないよ。演技をするんならもっと…』

 草むらに近寄った地点で大きく影が揺れて僕を押し倒した。

『いたぁっ?!』

 月も出ない夜道の影響あってかそこにいる誰かはどんな姿なのか見受けられなかった。でも、僕はそこでやっと嫌な恐怖が身に浸透するほどの恐ろしい予感を感じた。
 ワドルディにしてはさらに大きい姿、それにすごく重い。押しのけて逃げようにもこれでは身動きが取れない。

『はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ』

 やけに興奮した状態で、ずっとはぁはぁ言ってる。どこか体調でも悪いのだろうか…。

『あのぉ…』

 僕の問いかけにも全く無反応なようで、その大きな影のヒトは慌てるように何か身動きを始めて、さらに動機というか、はぁはぁ吐息をする音が増えた。
 突然、僕の足の間に何かが当たった。丁度おしっこをするところに。

『あの、大丈夫ですか…?』

 体調について尋ねてみたが、これまた無視。なんだってんだ。このヒト。
 次第にこのヒト、行動がどんどん怪しくなってきた。何故か正体不明の異物をずっとすりすり高速であてがってる。何がしたいのかは全く分からなかったけど、何故か僕の足の間から尿意は感じないのに、液体のようなもの溢れてきた。

『???』
『はぁっはぁっぁはぁっっっ!!!!

 ッはぅくぅうっっっ!!!!』

 突然顔に何かがぶっかかってきた。ヒトが心配しているときにこの野郎!液体をかけてきやがった…。しかし、このヒト…さっきに増して息切れが増えたな。…なんでだろう。

『…っ?!グっ…がァッ…?!!!』

 一瞬ビビった。僕の上にいたそのヒトは突然横に倒れた。何事かと疑問に思ったが、それより別にその向こうにいた人物に目が留まった。

『カービィ!』

 なんてこった、真っ暗で何も見えないけど…。なんとなくわかった。

『おまえだろ!ストーカーの犯人!』
『いや、私はそなたの貞操を…。この汚らわしいゴミクズにそなたの美しさを取られなくてよかった。
 ……!そなたの顔に…』
『ああ、これ?なんか、変な声あげた後そこのヒトがぶっかけてきた』
『中には…何も出されていないか????』
『…何それ』
『…このクソ野郎…!カービィに口止めさせて…!
 安心しろ。こいつに口止めされているのは分かってる。ちゃんと真実を言いなさい』
『いや、だからなにも…ただ足の間に変なもの擦りつけられてただけで』
『…な…っ!!!!私のカービィになんてことを…!このクソ野郎がァ…!ぶつ切りに切り刻んで捨ててやるっ!!!!』

 実際、何が起こったのか全く分からなかった。
 そもそもこいつこそ信用できない。さっきのヒトは病によって苦しんでいただけなのに誤解されてなんか…ぶつ切りにされるらしいし。それに僕はあんたのものじゃないんだけどな…。

『あの…もう帰っていい?』
『帰るって…どこに』
『家に決まってるだろ!それ以外どこにあるってんだ!』
『決まってるじゃないか。私の家(アジト)だ』

 無視して僕は帰ることにした。なんかいろいろ聞こえたが、僕にはよくわからないから耳をふさぐことにした。
 でも、後ろから「カービィ」と馬鹿でかい声が聞こえて、流石にそこでは振り向いた。

『これからこんな陰気なストーカーからそなたを守って見せるから、どうか私を信じてくれ。怪しい奴がいたら(というか、カービィに近づく奴らは全員)皆殺しにするから。だから安心して私に身も心も任せてくれ。愛しい愛しい私のカービィ♡』

 だから、僕はあんたのものじゃないって。それに、一番怪しいのはお前だし…。

 僕はそいつに何も期待することなく家に帰った。

 鏡を見たら白い液が顔についてた。牛乳かと思ってすくって舐めてみたらかなりまずかった。まずいレベルではない。クソマズイ。

『アイツぅ…腐った牛乳かけてきたのか!』

 当然顔を洗って、そのまま寝た。
 …あ、お尻洗うの忘れてた。


 *


 結局、あの闇夜のせいで犯人の顔が分からなかった。名前聞いとけばよかった。

「あー…、やだ…」

 僕は切り株の上で腰を下ろした。唐突に、最近の出来事を思い出してみた。

 三日前、リンゴ農園に遊びに行った。僕は大きなリンゴを一つ選んで農園の下のほうにある見張り小屋でリンゴ農園の夫妻や友達と集まってリンゴを食す会を開いた。僕がカリッと噛んで、おいしく食べてると、僕のリンゴに少し穴が開いてて、そこから青虫の頭が見えた。その時、僕は別の子に分けてもらい、1時間後また摘みに行くことになってもう一度リンゴ農園に帰ると、リンゴの木の根一本と残らず消えていた。勿論、夫妻はかなり悲しんでいた。僕達も茫然と立ちつくしかできなかった。たとえ一つとリンゴが落ちていても、やはりそれはぐちゃっとなった物だけで原形をとどめたリンゴは一つと落ちていなかった。僕もリンゴが食べられないのかという悲しみで泣きだしたら、次の日には話によるとリンゴ農園の地面に苗があちこちに埋められていたという。一体なんだった。
 昨日は昨日で、僕のケーキを間違えて食べたナックルジョーと、肩にぶつかったスカーフィが今日、何故か死体となっていた。そして、たまたま僕が見つけたメモに「カービィの体に触れた汚い奴らは排除しておいたから、確認してくれ。私はいつでもお前を見てるから、安心してくれ♡」と、書いてあった。♡付けんなと思った。

 …未だに感じる視線。この正体はなんだろう。

「(そのうち飽きたら帰るかな…)」

 僕は家に帰って寝ることにした。突き刺さるほどの強烈な視線に相成って、呪詛のように聞こえる僕の名を呼ぶ声が、実に疎ましかった。








 初心に戻って書いてみたが、見事にダメになった。
 私とあるが、誰なのかは…分かりますよねェ?




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