小説

□時計と君と僕と
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 チク タク チク タク

 大きな月がまんまると、僕の頭の上を通り過ぎる。
 鼓動と共に鳴る時間の過ぎ行く音。その音が今日はどうにも静かすぎて、嫌気がさした。

「…僕はもしかして」

 ――死んでるのかな?
 ふとそんな言葉が頭を過ぎった。そう思うとどうしたことか急に不安になった。

 僕は家を出てプププランド全体が見える丘まで上り、皆眠りについて地上には光一つ無い暗闇を眺めた。
 まだ心が空虚のままなモノだから気休めに空を見上げた。体がボールみたいに丸いものだからコロンと周り、その一等身の体を月に向けて夜空を眺めた。
 月光を全身に浴びながら空を仰ぎ見る。
 星が流れ、願い事を言う暇もなくその陰は消え、僕はあの光の陽炎を見るため瞼をそっと閉じた。

「カービィ?」

 ふと聞き慣れた声が耳についた。目蓋をあけると不思議そうに僕の顔をのぞき込む、珍しく仮面を着けていない彼の姿があった。

「やあ、メタナイト。…こんばんわ」
「ああ…。隣いいか?」

 僕は何も言わずコクンと頷き、隣にメタナイトが座り、僕と同じようにころんと仰向きに寝そべり、しばらく無言のままで空を眺めた。

「何故こんなところにいるんだ?」

 メタナイトが沈黙を破り、きれいな声で僕に尋ねる。

「何でだろ?」

 星が見たかったわけでもないし、月を眺めたかったワケでもない。

「私は…。…フッ、私もよくわからない」
 なんだ、と僕は笑う。

「自分のことなのに分からないなんて、変なの」
「む、そんなカービィこそ分かってないではないか」

 それは、と少し躊躇い、少し考えた。
 ――寂しかったのかもしれない。

「時計がね、鳴らなかったんだ。いつもチクタク鳴るのに、今日は一段と静かでさ」
「それは…、単に電池切れでは…」
「もちろん気づいていたよ。でも、何か寂しくてね。ほら、時計って一定の音がずっと鳴るでしょ?それが無かったせいかなぁ、心臓が止まってるような気がしたんだ」

 でも今は…何故か鼓動が聞こえるんだ。君が横にいるって考えただけでとっても、温かいよ。
 メタナイトは起き上がってその位置に座り僕を見、笑った。

「…そうだ、私もカービィと殆ど同じようなことを考えていた。
 時計が鳴らない部屋に忽然と一人になったように思い、部屋から出て何となくここへ来た」
「そうなんだ」

 よいしょ、と起き上がり丘を降りる。途中名前を呼ばれたような気がしたけど、そのまま家に帰りベッドに転がった。

 タク………チク タク

 鳴るはずのない音と進むはずのない針が動き出した。

 でもそのまま30回鳴ったところで止まった。もう音が鳴り響くことはなくなってしまった。

 昨日、メタナイトが泣いてる夢を見た。僕を見て泣いていた。

 僕は訳も分からずまた眠りに落ちた…。












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