小説

□それはまるで夢のよう
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 今日も快晴、木々は懐かしい香りを漂わし、海はカモメを呼び、山は木霊をはためかせ、川は小魚を育ませる。
 そして私は、じいに急かされていつも書類にハンコを押す仕事と会議やらの連続で遊べる暇が全くない。

 そんな中、一通の手紙が来た。
 宛先は書いておらず、白い封筒で少し重みがあり、只一言「ゼルダ姫」と記されているのみだった。

「まあ…、どなたからなのかしら?」

 椅子に腰掛け、封を開け中を見た。
 一枚の半分に折られた手紙が入っていた。

「『拝啓、ゼルダ姫。元気ですか?僕は相変わらず元気にやってるよ。』…?
『ゼルダ姫は多分、毎日じいやさんに捕まって遊ぶ暇もなく大変な日々を送ってると思う…。僕もまた、仕事に明け暮れて会いに行ける機会も少ないから、まぁどっちもどっちだね。』まぁ、敬語も使わずにこの方は…、でも、この筆、どこか懐かしい感じが…。
『もし僕があの時、剣の道を選んでいたら…。もうちょっとゼルダ姫に会えることができたかな…。
 また何時か会えることがあったら、その時はまた、僕の汽車に乗って冒険しようね。』これは…」

 まさか、と思い思わず大地の笛の方へ振り向いた。
 そういえばあの騒動から約一年、私の心に深く刻み込まれたあの思い出。多分これは懐かしい、愛しい彼からの手紙。
 窓から風が入り、封筒が飛んで床に落ちた。――と、同時に何かが封筒から落ちた。
 紅い石がはめ込まれたペンダントだ。
 私たちが冒険していた時宝物は沢山見つかり、そんな綺麗な物は一度たりとも見たことはなかったけど…。

「下さるのですね」

 私は心なしかペンダントを首に飾り、自分の首から吊されたとても美しい、どんなにお金をはたいてもこれ以上美しい宝物はない物を堪らなく喜んだ。

 手紙は机の上にまだ置いてある。このまま永遠に、彼をまた忘れないように。――しかしその思いも束の間、バンッと激しく扉の開く音とじいのこれこれと言う声が聞こえた。
 私はドキッとして、じいの方を向く間もなく颯爽と慌てて手紙を本と本の間に隠した。

「お前さん!いくら何でもそんな強引に…、は、早く押さえつけるんじゃ!姫様に危害を加えにきたのかも知れん」
「わかってますよ!じいやさん。ほら!小僧、ここは姫様のお部屋だぞ!身の程を弁えろ!」
「うるさい!はっ、離せ!」

 じいの過剰過ぎる心配そうな声と兵の怒声が耳にツーンと響いた後、場所を弁えない誰かの声が聞こえた。

「もう、何事ですか?もう少し場所を弁えなさ………」

 振り返ってそちらを見た瞬間、夢ではないかと疑った。紅い石が胸元でさり気なく美しく光る。私はジワリと目から熱い涙が零れ、即座にじいと兵を払い、彼と二人になる。
 正しくそう、その姿は…

「あなたは…!」

 その日一番高らかになるの汽笛の音がどこかで鳴り響いた。






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