小説

□僕のオモチャ
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 つまらない。

 そこいらのガキ共は僕を見るなり罵声を上げどっかに行きやがる。

 僕は魔法使いなのサ。でも…、悪戯のために使う、柔い魔法くらいしか使ったことがないのサ。
 只嫌いな奴を殺したりアイツのスープに毒毛虫を入れたりソイツに悪夢を見せたりコイツに足を遮断させたりサ?
 その姿が無様で無様で、見てるのがとっても楽しい。

 僕はいつしか人気のない森の中で一人で遊ぶようになった。僕にとってはそれなりに楽しかったし、全然退屈なんてしなかった。

「明後日はあのメタナイトとか言う最近調子に乗ってる奴の紅茶の中にこの毒蛇をミキサーにかけてドロドロだった状態をうまく加工して粉調の薬にした物を入れてやるのサ」

 一人、明後日奴がどんな苦しみ方をするのかを想像すると待ち遠しくて待ち遠しくて仕方なかった。

 背後から草をかき分ける音が聞こえすぐさま後ろを振り返った。

「…誰かいるのサ?」
「…!ぽよっ」

 …驚いた。コイツは赤ん坊じゃないか。ったく、ビックリさせやがって…。
 ピンク色の玉みたいなソイツは僕に向かってにこにこ笑っている。…もしかして。

「…さっきの、聞いてたのサ?」
「ぱゆうっ!」

 …何言ってるのかさっぱり分からないのサ。ハイなのかイイエなのかはっきりしてほしいのサ。…でも、こんな赤ん坊が、しかも全く喋れていないような奴が、明後日の悪戯を誰に話そうと言うのサ。
 僕は久々実に愉快な気分になった。

「ぱぁゆ!ぽよぉっ」
「なんだい?僕と一緒に遊びたいのか?」
「ぱゃあっ!」

 ソイツは満面の笑みで笑っている。

(コイツ…使えるのサ)

 僕もまた、別の意味でクククと笑いかえした。





 次の日、この赤ん坊は道中でカービィカービィと呼ばれていた。多分コイツはカービィという名前らしいみたいなのサ。
 僕はカービィを連れてプププランドから少し離れた少し荒れた村に連れてきた。
 その中は奇声を発する者や簡単に人を殺そうとする狂人が刃物を持って子供を抱えた婦人を追いかけ回している。

(ケッ、クズだらけの村なのサ…。悪戯しても何の価値もなさそうなのサ)

 ガキ連れてわざわざこんな寂れた村に来たことに何も楽しみを覚えない。

「ぱぅ…」

 僕の陰で黒い瞳に涙を浮かせ、小刻みにその小さな体を震うカービィ。

「カービィ、震えているのかい?怖いんなら帰ってもいいんだよ?遊ぶのは中止だね」
「…!ぱっ…ぱやぁ!ぽよっ!」

 多分嫌がってるのだろうか。その証拠にほら、無様に僕の足にしがみついてるのサ。

――なァんて愉快なのサ!

 そう思ったのも束の間、向こうから誰かの声が聞こえた。

「カービィ!」
「ぽよっ♪」

 そいつはワドルディだった。

「ああ、最近派遣された僕の様子を気にかけてくれたんですね!」
「ぱぁゆ、たゆ!」

 しばらく置いてけぼりにされてポカンとしていた僕にワドルディが気づいたように話しかけてきた。

「んん?あなた…どこかで見たことありますね。」

 瞬間ドキッとした。マズい。ここで魔法使いだとバレたら、ケームショ行きなのサ!

「し、知らないのサ!僕は君なんか見たことないのサ!」
「サ?その口癖もどこかで…」

 くそっ…、どうしようか。暑くもないのに汗が頬を伝う。

「ほよっ!ぱゆ!」
「ん?何ですか?カービィ。ああ、遊びたいんですね」

 わかりました。とワドルディは幸せそうに笑いカービィとワドルディは僕から少し離れて行ってしまった。

――カービィは、

『僕の陰で黒い瞳に涙を浮かせ、小刻みにその小さな体を震うカービィ。』

――あれはこの村に着たことで、嬉しくて感動していたんだね?

『多分嫌がってるのだろうか。その証拠にほら、無様に僕の足にしがみついてるのサ。』

――むしろ逆。僕の足下にしがみついたのはこのワドルディと会って遊びたかったからなの?

 腹が立つ。

 腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹がああああああああああ!!!!

 計り知れない嫉妬心が僕の胸の内を蝕んでいく。





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