小説

□しあわせにしてあげる
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 あまりにも突然の出来事だった。ここプププランドにはまず珍しい出来事だと思う。
 私が、悪い。自信の身に刃を突きつけても許してはくれないだろう。彼を…ちゃんと見ていなかった所為で…こうなってしまったのか?



 私が読書をしていた傍らで彼は呑気に花を集めていた。そこへ偶然通りかかった蝶に魅せられ追いかけたとき、不意に上から岩が落下して彼に命中した。岩が落ちた音で私は本を閉じ、やっと彼が居ないことに気づき、血だらけになり気を失った彼を抱え医師の元に急いで運んでいった。

「…かなり重傷ですね。暫くは入院させ様子を見るしか術はありません」

 全く、最近の医師は頼りのない者ばかりだと私はイライラした。
 その日から欠かさず毎日彼の様子を見に行くことにした。ある時は日がな一日太陽が昇り、月が沈むまで居たこともある。
 心拍数に変わりはなく、血圧もきわめて順調。このまま無事に眠りから覚めてほしい、そうとばかり考えていた。

「メタナイト卿、ただ一つ決定的に不安な点がありまして」

 医師は少しもじもじとした感じで、なかなか説明しようとしない。

「気にせず言ってくれ。私は何でも受け入れる」
「………わかりました」

 どこか安心したような喋り方から少し緊張感が解けたらしい。が、やはりまだ少したじろい、偶に溜め息をもらしていた。
 決心したのか、実は、と少し怯えながらも喋り出す。

「カービィは頭から岩に直撃したから…もしかしたら何らかの障害がおきて植物状態で一生を過ごす確率も非常に高いんです」
「…植物状態」

 星の戦士がそんなものになれば銀河中の強敵が一斉に動き出し、あっという間に暗黒の世界へと姿を変えるだろう、と思ったのが一つ。事実、私はこの事情を受け入れたくはなかった。受け入れる気さえなかった。簡単に、理由は一つしかない。なるわけがない。からだ。

 翌日、私はまた病院に向かった。今日はやけに静かで恐怖にさえ感じた。病室に向かう右の角を曲がったときだった。

「ゃぁああああああぁあぁぁ…っ………」

 その向こうから劈く悲鳴が聞こえてきた。何事かと思い走り出し、カービィの居る個室を走り抜けようとしたとき、医師がひょっこり顔を出し、呼び止めた。

「カービィです。今、目をさましました」

 に、してはどうも浮かない顔をした医師に疑問を抱いたが、そんなことはあまり気にせず中に入った。
 まるで恐ろしいモノを見たかのように部屋の片隅でこじんまりとした身体を震わせ、私を見上げていた。

「カービィ、…良かった、何も無かったみたいだな。さあ、帰ろう」
「………っ」

 ガクガクと怯えながら目を見開き、ふるふると首を横に振った。

「…?何をそんな震えて…」

「ぁ…アナタは…だ、誰?」

 何かの聞き間違いかと一瞬思った。しかしそうではないらしい。カービィはやたらバカ正直で嘘は言わない。例え冗談であろうと私を全く知らない、というような冗談は絶対にしないと断言できるからだ。
 ならば、これは一体…?

「メタナイト卿、間違いでなければこれは…記憶喪失だと思います」
「…記憶喪失だと?」
「ええ、カービィは一応頭に岩をぶつけているわけですから、そのケースで記憶喪失になるパターンも決して少なくはないんですよ」
「………」

 信じにくい話に頭の中がミキサーをかけられたようにぐちゃぐちゃになって訳が分からなくなった。私を分からない…と、なると夢の泉での出来事はおろか、剣を取り戦ったことも忘れてしまったか。
 医師はそっと震えるカービィを撫でる。その行為にカービィは医師に少し警戒心をなくしたのか子犬のように弱々しく上目遣いで医師を眺めている。

「暫くの間はメタナイト卿が匿っていていただけませんか?」

 陛下ならまだしも、マルクやナイトメアといった世界を支配しかねない悪がこのことを知ったら…、必ず利用するかもしれませんからね。と医師は深刻そうに呟く。

「…分かった。引き受けよう
 カービィ、私はメタナイトという。…怪しい者ではない、安心して私についてきてくれないか?」

 医師の後ろに隠れ、暫くは様子を見ていたが、こくりとゆっくり頷き私の方に寄ってきた。

「私からカービィは新たな冒険に暫し出て行った"らしい"と噂をしておきます。ですので、最低でも十日はどこかに…出来るならその間に記憶を取り戻せたらいいんですが、何せ薬はおろか道具も全くないものですから…」

 すみません。と医師は言う。
 マントの裾がぐいぐいと引っ張られ、体が少し傾き、不安そうな瞳がそこにあった。

「…め、メタナイト…。…僕は…一体何者なの…?冒険って…」
「…カービィ、安心しなさい。私がお前を守ってあげるから。お前は何も心配することはない」

 宥めるように頭を撫でるしか私には出来なかった。

 同時に、私に悪戯心に似たモノがゆっくりと姿を現しだした。





「ここは…メタナイトの部屋?」
「うむ。カービィ、馴れないところに突然住むということだが…大丈夫か?」
「うん。多分…。…ねぇ、メタナイト。ところで僕は一体…何をしていたの。今までのことが全く分からないんだ」
「…カービィは、簡単に言えば勇者のような素晴らしい力と勇気を兼ね備えた星の戦士だ。そうだな…のんびり屋で食いしん坊、そんな者だろうか」
「…へー、…変な勇者だね。
 あ、なら、メタナイトとはどういう関係だったの?友達?」
「私と?イヤ、そんな柔な関係ではない。私とカービィは………」

 私は口を詰んだ。
 互いに剣を交えるようなライバル…、と言えばどう返すだろう。また怯え出すか、常に死を覚悟する獣のように私を全く相手にしなくなるだろうか?
 カービィは首を傾け不思議そうに私を見つめる。実際、ここに来るまでまだ警戒していたカービィだったが、私が偶に話しかけているうちに程なく打ち解けた。
 そしてまた二つに一つの間柄になるのは歯痒い。

「…私とカービィは…恋人同士…だ」

 私はついとんでもない嘘をついてしまった。顔が火を噴きそうなほど熱くなる。それを聞いたカービィは目を泳がせ、少し恥ずかしそうにしている。

「こ…恋人…?」
「…っ、う、うむ…」
「…そっ、そうなんだ。全く覚えてないなんて、僕は…。ご、ごめんね、メタナイト…」
「あ、…いや、気にすることはない。むしろ私が…」

 ハラハラしながら心の奥底ではどこか嬉しくて感動していた。
 虚言一つで欲しかったモノを手に入れられた。そのことに幸せさえ感じられた。

「…あ、もう夜だったんだ。もう何だか眠たいや…、メタナイト、ベッドはある?あ、ないなら僕はソファーで構わないよ」
「………カービィ、来なさい」
「…え?わっ、め、メタっ…?!」

 私の何かが切れ、カービィの手を掴み寝室へと連れ、ベッドの上へ投げるようにカービィを放った。

「いたぁ…、め、メタナイト、どうしたの?」
「カービィ、恋人同士、と言えば…何をするかぐらい分かっているだろう」

 仮面をはずし、ベッドの軋む音を聞いた。

「え?な、何?…メタナイト?」
「…知らないか?なら教えてやらねばな」





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