小説

□インメィディトゥリー
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 あたしはいつもこの丘に座ってプププランドを見下ろしていた。
 みんな酷いんだ、さっき丘から降りてサッカーをする子達に混ぜてって言ったらすっごくジロジロ見て「お前女だろ?女はままごととかして遊べよ」って言われたんだ。
 差別…っていうのかな?こういうの。だってあたしは確かにあの男の子たちが言うように女の子だけどあの女の子達みたいに花の冠とか、やり方知らないし(そもそも興味ないし…)、ままごとなんてしょうもないモノやっても楽しくないし、髪型を弄るのも元より髪が短いから無理、というか括れない。服だってそんなフリッフリのスカートとか興味ない。オシャレにもまったく。

 膝の上で肘を付き、顔を抱え憂鬱な気分になる。どいつもこいつも、まるであたしをつま弾きされてるみたい。

(暇つぶしに絵でも書こう)

 スケッチブックを取り出し、色鉛筆を鞄から引き出し、絵を書き始める。

 晴れた空。広がる草原。可憐に咲く花々。楽しそうに遊ぶ子供たち。
 …絵を描くのにこんなにとてもいい状条件がそろって描くのが楽しみなはずなのに、どうしてか気分がのらない。

(…。あたしってヤな奴…)

 ペン先が進まず15分はした頃だった。後ろから草を分ける音がしてなんとなく振り向いた。するとそこには…。

「あ」

 カーくんがえへへ、とはにかみながらあたしの横に座った。

「カーくん…どうしたの?ここに来るなんて珍しいね」
「なんとなく…かな?なんかこっちに来た方が楽しそうな気がしたんだ」

 楽しいことか…。全くそんなものないんだけどなァ。

「全く楽しいことなんかないよ。この辺は果物とか実った木は一切ないし、……ましてや遊んでくれるような子はいない。な〜んにも遊んであげられるようなことが出来ないあたしだけ…」

 ちょっとした絶望感に浸りながらあたしはカーくんに愚痴を聞かせる。
 ヤだなぁ…。
 ホントにあたしってばヤな奴だ。


「そんなことないよ」

 何かに期待したような眼差しであたしはカーくんの方を向き返した。

 すると、カーくんは小さな体をつま先立ちで少し背伸びし、あたしの頭を子供をあやすかのように撫でてくれた。

「へ…っ?」
「僕は絵を描くアドが大好きだよ。だからそんなに悲しい顔しないで」
「ぇっ…え。で、でもほら!あたしって女の子らしくないし、可愛くないし…せいぜい絵を描くことしか取り柄がないし…」
「どこが?」

 キョトンとした顔で言われ、あたしは動揺を隠せなかった。カーくんは本音しか言っていない。たった三文字の言葉であたしの価値を変えようとするなんて…。あたしなら到底できないよ。

「アドは十分女の子らしいし、とっても可愛いよ。アドの絵、僕は大好きだし…。そうだ!じゃあ僕を描いてよ、アド!…………アド?」
「………っへ?あ、うううん、わ、分かった」

 普通の筆と持ち換えてあたしはカーくんを描き始めた。至ってシンプルなその体を描くのにどういうわけかとっても難しく思えて全然思い通りに描けられない。

(カーくんは分かってないみたいだけど、ある意味これは告白みたいなもんだよ…。だめだ、全く集中できない。何か…思い通りにこの生身のカーくんを見ながら描けられない…)

 下を俯きながらスケッチブックに殆ど最初一瞬ちらっと見たぐらいの記憶に映ったカーくんを描写していく。

「どう?描けた〜?」
「あっ、ま、まだ!」

 カーくん自身やはり自分が簡易的な体のフォルムなことには自覚があるらしくすぐに描けると思っていたのだろう。でもあまりに私がのんびり描くから流石に不思議に思えてきたのだろう。
 仕方ないじゃないか。なんてったってあたしは…今…。

「ほっ…ほらっ、出来たよ!」

 明後日の方向を見ながらカーくんにスケッチブックごとあげた。

「ゎーぃ…。あれ?色塗ってないんだ?」

 嘘だ。あたしは色を塗ったと思ったのに…。あたしはカーくんの横に立ち、絵を覗き込んだ。
 …本当に色が塗られていない…。時間を使って描いたのに塗られてないなんて私には初めての失態じゃないかな…。

「っ…、ごめんね!今書き直すから…っ少しの間、待ってて…ごめ………」

 カーくんが背伸びをしてあたしの頭を撫でてくれていた。あたしはそこから微動だに出来ずにいて、石像のように固まってしまった。

「僕は、これがいいから。アドは謝らないんでいいんだよ?僕…このままでもアドの絵、大っ好き!!」

 迷いのない、穢れのない感謝の言葉を向けられ、あたしはつい顔がほころび、カーくんに余計謝っちゃった。

「泣かないで、謝らないで。君は笑顔が素敵なんだから。笑ってなくちゃ…ね?」

 あたしはこの瞬間を何処かで見たような気がした。一瞬、白昼夢かと思ったけど…?

「どうしたの?」

 ボーっとしていたあたしにカーくんは笑顔でそう尋ねてきた。

「なんでもないよ。カーくん」

 あたしは笑顔でカーくんに向けてそう言った。
 …きっとあの気持ちは幻だったんだろう…。

 カーくんに頭を撫でられたいがため、もう一度笑顔になって見せた。









 ある長いお話とある意味繋がっています。
 短いですが、ある意味重要です。やっと書けて清々する…。





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