小説

□始まりの始まりのお終い
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 世界で一番残酷な拷問はなんだろう?
 僕は不意に思った。平和なこの世界とは裏腹に僕の中では、グロテスクな予想や妄想が拡がっていた。
 僕がこんなことを想像することになるとは、世界の終わりも近いのかもね。何故かというと僕は皆が言う「勇者様」なんだもん…。


 *


 今日、どういう風の吹き回しなのかカービィに呼び出された。(どうやってかは聞かないでくれ)折角宇宙をさ迷っていたのに…。
 だがまぁいいサ。どうせ近々寄ろうとは思っていたしね。

 約束だと陰気臭いあの城の前で待ち合わせって言ってたっけ。…あ、いたいた。
 彼はいつか見た明るい笑顔でボクを迎えてくれた。

「来てくれると思ってたよ」
「ふん、丁度寄ろうと思ってたのサ」
「そっか、ならよかった。じゃあ、ついてきてよ」

 カービィはボクを連れて城の中に入った。しかし今日は何の目的で呼ばれたのだろうか。ボクはそれさえも説明されぬまま今こうしている。

「カービィがボクを呼ぶなんて珍しいのサ。何なのサ」
「あまり大きな声では言えないからその場所についたら説明するよ」
「…?」

 今日のカービィは何か…怪しさ満載だ。いや、怪しいよりおかしいと言う表現の方が似合うだろう。



 出入り口から随分歩いた。なのにまだ目的地には辿り着かない。

「………何処まで行くのサ!ヒトの気配だってもうとっくに無くなったんだ。いい加減教えてほしいのサ!」
「まぁ慌てないでよ。…あそこはああいう事をするための部屋なんだ。あまり住人には知られちゃいけない場所なんだから…」

 一体何処なんだろうか…。流石に不安になってきたボクは一度辺りを見回すことにした。最初来た道と比べて瞬いていた灯火はなくなり、下りの階段ばかりを歩くばかり、地下奥深く…。
 明らかにボクは何かとんでもない場所に来てしまったらしい。

「…着いたよ」

 長かった。ボクとカービィは鉄のような重々しい扉の前に佇んでいた。

「ちょっと待ってね。えっと…この辺りに鍵を隠したっけ…」

 何となく察しがついた。多分ここは…

「拷問室…?」
「あれ、何でわかったの?」

 カービィは鍵を探す作業をしながらボクの問いに答えた。

「こんな奥深くで…鉄の扉で…それと臭い…」
「臭いかぁ…。確かにちょっとサビみたいな臭いがするね。ここってずっと昔に結構使われてたみたいで、その血の臭いが未だに消えないのかな?…あ、あった」

 その直後に鍵が開く音がした。
 重々しい扉が開く音がした後、中を覗きこんだ。
 中は予想通り奇妙な形をした機器ばかりがある拷問部屋だった。ツンとした異臭は更に増して吐き気がした。真ん中にある椅子は…電気椅子らしい…。

「か…カービィ!!まさかボクを殺すために連れ込んだのか?!」
「違うよ。
 ねぇ、マルク…」
「なっ、なんなのサ…」

「ちょっと協力してくれないかなぁ?」



 ボクはカービィに足枷を嵌めた。ボクの意思じゃない。カービィ自ら頼んできたんだ…。

「できた?」
「あ、う…ウン…」
「これでボクは逃げることはできないね…」

 カービィも確認するようにその足枷を触り、決して逃げられないか調べていた。  彼は身を持って知りたいらしい。そのさっき説明してくれた世界で一番残酷な拷問というのを……。

「じゃあまずは手始めに僕の肌をカンナでスライスして」
「カン…ナ……?」

 手渡されたのは紛れもない、大工仕事で使うようなカンナだった。刃を見ると所々の部分がサビだらけで、切削(せっかく)途中うまく剥ぎ取れないかもしれない。
 …いやいや、ボクは何を考えているのサ。こんな恐ろしいことはどうあっても拒絶しなければいけない。……

「だ…ダメだ!こんな馬鹿馬鹿しいことやっちゃダメなのサ!正気に戻るのサ…」
「マルク、何を言ってるの?僕は今も正気だよ?」

 到底嘘には聞こえなかった。普段通りの綺麗な目をしていて、それさえ聞いていなければいつもの彼、そのものだった。
 こんな意味のない行為をして、彼が何の特をするのか?ボクにはわからなかった。

「ねぇ、マルク。君に僕を殺してもいい特許を与えたんだよ?その特許を投げ出すの?君にだけ…なんだよ…」

 『ボクにだけ』…。それを聞いて小さく反応したのを彼は見逃さなかった。

「僕はきっと止めろって叫ぶだろうけど、絶対止めずにそのカンナで僕を剥ぐんだ。あ、言っとくけど、拷問に使用するのはカンナだけじゃないからね。他にもあるから、僕がすぐ死なないよう、じっくりと殺していってね…」

 言いながらその短い手で馴染みのあったりなかったりする道具がある方に指差す。

 正直何の自信もなかった。そりゃあ、大好きなカービィを殺せるのは嬉しい。それもゆっくりゆっくり、さっさと死なない程度にだ。
 でも…やはり彼自信に頼まれるのはちょっとした違和感が感じられる。

「は、早くしなよ…」

 カービィの声が震えていた。やはり自信でも分かっていたらしい。これがどんなに恐ろしい自傷行為なのか(自傷と言うべきだろうか)。

 ボクは羽に持ち合わすカギヅメを使ってカンナを…彼の柔らかな左腕の肌の上へ当てがった。…カービィの肌は小刻みに振動し、震えているのを見てとれる。
 …これをちょっとだけ、強く当て……少し、ほんの少しだけ…その切削機器を手前に引いた。

「ぃ…ギッ…ィィイ…!!!!」

 表情を歪める。恐らく刃が見に身に食い込んでいるのだろう。鮮血がそこから垂れている。

「ヒッ、ヒッ…!!な、なにやってんの…!早く、早く引いて!」
「やっぱりやめよう!絶対にバカじゃないか!」
「いいから!」
「だから…!」
「ひけぇぇえぇえぇえぇえぇえぇええ!!」

 ボクは悪寒を感じ、手前にすごい早さでカンナを引いた。肉のぐちぐちっという音の後、ガッと身と刃が引っ掛かった。

「ィぎぁぁあ"ぁあぁ"あ"ぁ"あ"あッあィはぁがぁ"いヒぃがァぇあああッああああああああああああ!!!!!!!!!!」      

 皮が捲れあがり、中の真っ赤な肉と血が露出した。ボクはその光景と彼の壮絶なまでの暴れように恐ろしさを感じて二歩下がり、…まるで汚物を見るかのような目でカービィを見てしまった。

「ィイがァああああ!!!!!!!!!!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃいい!!!!カンナが、カンナをとって!痛いょぉお!」

 慌ててボクはカンナを手前に力一杯引いた。ギちゅ、ガシュ!!と音をたてながらなかなかカンナは肉を引き裂こうとしない。長年血を浴びたまま放置をされていたいで渇いた血はサビと化してしまったのだろう。そのため運悪く肉を簡単にスライスすることができなかったのだろうか。
 叫び声は徐々に小さくはなるが、暴れようは酷くなる一方。ぎちぎちと歯を鳴らしながら僕を必死に睨み付けるカービィを見てボクはふとおもった。
 ――そんなに痛くて苦しいのなら、最初からしなければいいのに――と。





     
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