小説

□赤に染まった道にて右往左往する
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「あまり大声でしゃべるんじゃないのサ…」
「分かってるヨォ…。そんな君こそ叫ばないでよネェ」

 やたら雨と落雷が激しい夜、何処かの大きな城の中に侵入してみた。メンバーはボクとマホロア…。特に何の目的もなかったんだけど、取り敢えず食糧確保のための資金と食料を手に入れに来た。

「なんか滅茶苦茶静かなのサ…。もしかしてボク達嵌められたのか?」
「エーッ!!そうだとしたら困るじゃないか!ボクタチ捕まって一生牢獄行きなの?」
「バーカ、あくまでも予測なのサ!よ・そ・く!もしそうなったとしてもサ…一人残らず殺してこの星のモン全部奪って逃げたらいいのサ…!」
「そんなんデキっこないよォ、見栄っ張り」
「何ぃ?何でマホロアはいつもそーいう風に捉えるのサ!」
「シーッ、静かにしないとバレちゃうでショ?」

 マホロアはクスクスと笑い、ボクを少しバカにするようにしていた。

「ケッ、仕方のねぇ奴だ…」

 ふと、ボクはその場で立ち止まり、暗闇の奥を見つめた。それに気づいたマホロアは僕に問いただす。

「何やってるんダィ?…まさか、誰かに見つかった…トカ?」
「お前、何も聞こえないのか?…ほら、耳を澄ましてみるのサ」

 マホロアは不思議そうに僕を宥めた後、暗闇に向かって耳を傾ける仕草をした。

 ………ッ、…………ぉ…、…………ギャ、…………オギャ…………ッギャ……………… 

「…赤ん坊の泣き声?」
「兎に角行ってみるのサ」

 僕は何を思ったのか、その赤ん坊の泣き声のする方に向かって歩き出した。

「チョッ、マル…。ま、いいか」

 マホロアも僕の後を追い、一緒に真っ暗な城の道を歩いて行った。



 オギャアァ……ェッェ、……アア〜〜……オギャア、ギャア……ッ!!

 声がずいぶん近くで聞こえてきた。…恐らくこの声が聞こえてくるのはこの階段の下…。地下だと思う。
 僕は一歩足を踏み出し、地下に進もうとする。すると突然帽子を掴まれ下に行くことを阻まれた。「ネェマルク」と全く悪気のない声が後ろで聞こえ、バッと後ろを向いてなんなのサ!と怒鳴った。

「なんでわざわざ地下に行くんだい?どこからどう見ても怪しいじゃないか。そもそもこんな暗い地下から赤ん坊の声がすること自体何かの罠に決まってるヨォ…」
「………ケッ、マホロアもまだまだなのサ。さっきから歩いていて全然ヒトの気配がないことに、気づいていないのか?」
「…!言われてみれば…確かに何の気配も感じ取れないネェ」
「そういうことなのサ。だから安心して地下に降りてもきっと何もないと思うのサ。まぁ仮に現れたとしてぇ?そんときは潰せばいいだけなのサ」

 あっさりと残酷なことを言ってのけるが、マホロアはどうってことないようで笑って同感してくれた。だから僕も笑い返して地下に降りた。

 現在数えた段数は32段。声は響くけど近くには感じられない。結構深い所にいるのだろうか…?足場も狭くヒト一人通るのがやっとくらいの道幅を、なぜか縦に通らずぎゅうぎゅうと真横に通ろうとするこのアホを呼んだ。

「…おい」
「なァに?マルク?」
「“なァに”じゃねぇよ…、何こんな狭い階段でボクの真横を通ろうとしてやがんだよ」
「だァってぇ〜…。怖いじゃン?」
「何が怖いだァ!変な化け物に変身するお前の方がこんな暗闇より怖いって―のサぁア!!」
「ヤァダァ!それってボクを褒めてんの?マルク優しイー♪」
「なあああ!お、押すんじゃないのサ!わ、ギャ……!」

 積み木が崩れるかの如くボクとマホロアは階段から転げ落ちた。でも時が経てどもなかなか地面に落ちない…走馬燈みたいなものを感じた。

(こんなマヌケなことでボク…まさか死んじゃうのか?元の発端はあのアホのせいで…っていうか、僕が何で死ななきゃ駄目なのサ!こんなんで死ねるかぁアッ!!!!!!)

 羽を広げて両壁を押すように爪を立ててブレーキをかけた。
 すると、目の前には扉があった。

「あっt…ブゲフッ!!」

 背中から何かの塊みたいなのが凄い勢いでぶつかってきて扉をぶち破ってズザザザーッと身が引きずられるような音を立ててまぁなんとか中に入った。…のはいいが…。

「エヘ、マルク。ゴメンね☆」
「………。テメェ…ベタな部屋の入り方しやが…って………」

 寝そべったままで部屋の前方を見ると籠のような物とタオルケットのような布団…、それとガラガラが転がっていた。

「…赤チャん…?」
「………」

 マホロアはボクの上から降りると、ボクは黙って籠の元へ近寄った。

 毛布を退かすと、中には小さな赤ん坊が入っていた。どうやら寝ているのか、小さな呼吸音しか聞こえなかた。さっきまで五月蝿いくらいわんわん泣いてやがったくせして…。

「ネェ、マルク。この部屋の壁、ロウソクがある。しかも火がついててまぁまぁ明るいんダ」
「火が…?」
「それに地下なのにぜんぜん息苦しくないんダァ。…何処かに酸素を送り込んでくる穴とかないし…。まるで元から誰かが過ごしてたみたいだネ」
「そうか…分かったのサ」
「何が?」
「これは予想だけど、きっとここは地下牢なのサ。絶対とは言えないケド…。
 きっと女が元々ここにいて、ここでたまたま孕んでた子供を産んだのサ」
「フーン。じゃ、その女はどこなの?」
「それは…、…。僕たちが来る直前までここにいて、…あ、来る直前に兵に連れてかれたりしてサ?殺されたんじゃないの?これはあくまでも憶測なんだから、あまり深く首を突っ込むんじゃないのサ」

 するとボクたちの会話で目を覚ましたのか、ピンク色をした赤ん坊が目を覚ました。ボクを見てにぱぁっとこんな闇の中なのに満面の笑みを浮かべるこの子に変な違和感を感じ、ちょっと照れ臭かった。

「……笑ってやがるぜ。このガキ…今於かれてる状況をこのガキはワカンネぇのかなぁ…」
「あ、マルク。毛布にこの子の名前が刺繍されてるヨォ」
「ふーん。何て?」
「“カービィ”だって。
 …可愛い名前だネェ♪」

 そこでボクはあることを考えた。

「マホロア。この子…カービィを使った実験をするのサ…ケケケッ!!」
「エ…?」



 ――飛んで12年後…。



 いきなり話が飛ぶから、あらすじを語らせてもらうよ。
 …12年前…入る際にぶっ壊した扉はどっかの鉄屑の山から見つけたとても頑丈な扉を取り付けて、あの子がここから出ないように鍵も取り付けたのサ。
 それとマホロアは…

「ハァイ、マルク。食料と情報を持ってきたヨォ」

 マホロアは演技が得意だと聞いたから、食料確保やこの城の情報を手に入れて貰いたいからこのボクがワザワザこいつの為に頭を下げて大臣に構成させたのサ。ここの奴らは元から騙されやすい奴ばかりだから全く苦労しないで済んだのサ。

「おう、帰ったのサ?」
「マホロア〜、おかえりぃ!」
「カービィ〜♪クフフフフ、君は本当に可愛いネェ〜」

 マホロアは食べ物を部屋の片隅に置き、カービィを抱っこした。

「ねぇ、マホロア…、“外”って危険なんでしょ?何でマホロアやマルクは出てもいいのに、僕は出ちゃダメなの?」

 …、今から12年前マホロアに話した実験…、それは………。


『この子をこの部屋から出さずに育てる…のサ!』
『ソトに…出さない…?
 そんなことしちゃったら死んじゃうんじゃないノ?』
『詳しくは知らないけど、鬱になるとは聞くのサ…。でも大丈夫、ここは十分な温度だし空気も澱んでいないのサ。って言うか、だからそういうのを調べるから実験っていうんでしょ?』
『それもそうだけドォ…』
『兎に角、この子に外の世界を知らせない。そういう実験なのさ。…分かった?分かったなら返事するのサ』
『…ウン…』


 とまぁ、そういうことがあったのサ。詳しい事話すと何時間もかかるし、僕も飽きるし君も飽きるだろ?

「エート、それはねェ…」

 マホロアは僕の方を見て何を言えばいいのかと目で問いただしてくる。

(特殊なマスクを使ってるからだとでも言うのサ)
(ワカッタヨォ)

 ジェスチャーを使ってマホロアに指示する。
 しかしまぁ…なんだか最近カービィは外の世界を知りたがるような素振りを見せ始めてきたのサ。

「特殊なマスク…?じゃあ、僕もそれ付けるから外に行かせて!」
「それはダメだよォ、なんてったって外には細菌がウヨウヨ漂っているから、君みたいな小さな子が出たらすぐに感染して死んじゃうヨォ。だから我慢してネェ。オネガイだヨォ」
「そっか…分かった…」

 カービィはしゅんとして、持ち帰ったお菓子の袋を破って開けて、むしゃむしゃと食べだした。
 …と、マホロアは僕に寄ってきて、小さく耳打ちした。

「流石に限界だヨォ、カービィ、外に出たがろうとするし…」
「困ったのサ…どうすれば…。
 あ、それよりも、情報も何か持ってきたんだろ?聞かせてほしいのサ」
「ああ、そうだったネ。
 …実は、このカービィを探してるっていう人物がいるらしいのサ」
「…母親か?」
「イヤ、もうとっくのムカシに死んでるみたくて…、父親も死んでるみたいダヨ」
「じゃあ、そいつは誰なのサ?」
「サァ…。話に聞いたにはどうやら騎士らしくッテェ…、何のためにカービィを連れ去ろうとしてるのかはワカラナイんダァ」

 ボクは少し考えたあと、お菓子を食べ終わって満足しているカービィに近寄った。

 カービィはボクの方を見上げて笑顔になり…かけた。
 ボクはカービィの頬をぶっ叩いた。予想だにしない事態にカービィとマホロアは唖然としていた。

「マルク、何ヲして…!?」

 マホロアの言葉を聞くことなく、ボクはカービィを殴り続けた。後ろから羽交い絞めをするように羽を掴まれた。

「ゥあああああああああああーっ!!!!ええ゛ええ゛えぇーんっ!!」
「マルク、ヤメルンダヨぉ!ナンてコトするんダ!」
「…解せねぇ…」
「…?」
「カービィ…、テメェなぁア?!ヒトが命懸けで採って来た貴重なメシを何勝手に食ってんだよ?昔っから言って聞かせてんじゃねぇか!!!!外は危険だって。何度言った?えぇ?なのにまだ外に出てぇのか?!
 そうだ…外に出るくらいなら殺してやるよ…?外に出ても結局細菌が蔓延しちまってんだ。細菌にかかって死んでしまうくらいならボクが殺してやるヨ。…いつまでピーチクパーチク泣いてんだコラァアアアア!!!?」

 マホロアの羽交い絞めを振り解いて片隅に逃げたカービィを蹴り飛ばした。青い痣がピンクだった肌の色を変えていく。

「ャアアアアッッッ!!!!ええエエえっ、えぇえゥギぃ、へっ、ハッ、あ゛…、ご、ご…な…、えエッ、ゲッ、うぇッゲ…ごめな…さ…ぁッぁ゛…」
「…じゃあサ、これからずっと『いい子』にするってんなら殺さないよ。…約束できる?」
「ッヒガ…あ…やくそ…する!するっ!僕…いい子にするから…怒らないで、まるぅ…っ」
「そのかわり、もうここから出たいなんて口にしちゃあ駄目なのサ?」
「うん…うん…!」
「そ…いい子なのサ…」

 ボクはカービィの痛々しい躰を優しく抱擁し、泣き疲れたのかあっさりと寝かしつけることができた。

「…ボクはカービィが大好きだヨ」
「ボクだってカービィが好きサ。でもこれがボクの愛し方なのさ。何処にも出さない…外の…何処かの騎士の存在なんて知らずに。ボクたちだけしか知らない…カワイイカワイイボクのカービィなのサ」
「それは間違ってるヨ。カービィは外を知るべきダヨ…。キミは普通にこの子を愛せないのカイ?」
「ボクにとってこれが普通なのサ」

「フぅん」

 ボクとマホロアはそれ以上喋ることはなかった。この地下室には静かに響く寝息と火の揺らめく影だけが残った。

 そしてボク達の実験は、幕を下ろすこととなった…。


 「でも本当にそうですか?」



《結果?》…幸せになりましたとさ。












 

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