フラフラ今日も空気を徘徊している。無気力…そう、無気力に。 今日も嫌ってくらい暑くて明るい。空には白い鳩が飛び散ってる。太陽に向かって白い鳥が一斉に向かってる。 羨ましい。 羨ましいな。 「リボンちゃん、…おはよ」 背後から女の声がする。後ろを向いて誰かさんの確。…あー、やっぱり見ない。背中向けておこう。 「…おはよ。アドレーヌ」 素っ気なく返す。どんな表情をしてるのかは見たくもない。さっさとどっかに行けばいいのに後ろで動こうとしない。わたしはただ早く去ねと頭で唱える。 「…リボンちゃん、こっち向いてくれないの? まだ、怒ってる?」 都合の良さそうな言葉が聞こえる。アドレーヌ、あなたは一年前何をした? わたしから何を奪った? 何をしたか、憶えていないの? まぁ、頭空っぽなら覚えることも覚えられないか。 「あの…知ってるよね? 予定日さ、一週間後なんだ。立ち会ってくれ…ない?」 一週間後…? 後ろをチラッと見る。ああ、見たくないのに。受け入れたくなかったのに。嘘だと思っていたのに。いつもの無意味な虚言だって、思ってたのに…??? すっきりした顔立ち。脚も細くて…腹が、下腹部から山のように、不自然に出てる。 「ナァに…? ソレ…。ふ、ふ、ふ。太っちゃって、ヤァねぇ ふ、ふ、ふ」 あらやだ。つい現実逃避しちゃって、しらばっくれちゃった。でも、アドレーヌは冷静に、深刻そうな顔をして私の顔を見つめている。 目があった。瞬間恥ずかしくなり、顔をまた背けた。ああ、嫌だ。負け犬の遠吠えだなんて、わたしがこんなイカれた女に、負けたなんて…。 「くゥっ! …ふっ…ゥッ…っ!! ぐっ………」 途端に悔しくなり、背中を向けながら羽根を忙しく羽ばたかせ、拳を握り締める。 わたしはカーくんが好きだ。今も、ずっと、ずーっと。ず……と。アドレーヌにだって言ってた。すごく好きだと何度も語ってた。黙って笑いながら頷いて、ニコニコ偽善の笑顔をうかべていた。 あれは一年前。私が自分の家に帰ってくると、下半身を露出し、泣き喚くカービィを掴んでカービィの小さな突起物をガスガスと膣に出し入れするアドレーヌの姿を見た。アドレーヌの顔は悦として、気持ちよさそうに性玩具のようにカービィをガスガスと扱っていた。いっぽうカービィは泣きじゃくり、己の生理現象に抗うこともできず、彼女にされるままに使われていた。そして精を吐き出す瞬間、彼女は自分にガッチリとくっつけ、一滴の精も逃さぬようにホールドしていた。アドレーヌは顔を赤らめ嬉しそうにしばらく繋がったままで、腰をまぁるく猫のように屈み、カービィにキスをしていた。カービィは変わらず、半べそをかいていた。 アドレーヌがわたしに気づき、焦った顔をした。言い訳を必死に考える顔をしているが、言い訳なんてできるような状況じゃないことなんて自分でもわかっているだろうに。何かを言われる前にわたしは家の扉を強く閉じ、そのまま大きなウィスピーウッズの枯れ木の上で暮らすようになった。 友人に好きなヒトを寝取られ、しかも強姦で、友人の家で、最悪の愛(笑)の営みを見せられた。なんであんなことを、うちでやろうと思ったのかわからない。気が狂ったとしか思えなかった。 そして何処かから風の噂でアドレーヌが身籠ったと聞いた。相手はカービィだってのも聞いた。芋虫も這わないほど枯れた木の上で生活してから8ヶ月経った頃の話だった。 「あの時は……そう。場所がなくて、つい、リボンちゃんが家にいないの知ってて、鍵開けてるのも知ってて…。それで、カーくんを呼び出して…その……」 あ、言い訳だ。あの時言えなかったからって今更言い訳を始めている、うふふふ。 「カーくんにもちゃんと了解得て、子供が生まれたら結婚して、ずっと一緒にいてくれって約束もしたから。安定したらみんなで暮そ? リボンちゃんと、赤ちゃんと、私とカーくんと」 「は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???????」 しまった。つい大声で本音が出てしまった。まぁ、ここまできたら一緒か。鬱憤を全部言ってやろう。 「あんたたしがカーくん好きだって知ってたよね? 何度もなんども、あんたの汚いマン汁垂らした人の家で?! わたし言ったよねぇええ?! なのに知っててヒトん家で強姦する??? クソビッチじゃん?! 気もっち悪い!!! 常識捨てちゃったの? もうあんなマン汁が染みて臭くなった家帰るもんか! カービィの自由を奪いやがって! 許されたと思うな! 脳みそも股もゆるゆるな人間の女が! カービィを餓鬼を人質に束縛したらさらに結婚で縛るのか?! あったまおかしぃんじゃないの? ちっともカービィのこと考えてないし、自分のことだけじゃん?!? 死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! テメェの腹に入った餓鬼が報われないわ! 二度とわたしと話もするな! 目も合わせんな! 友達のふりして好きなヒトを奪いやがって! 諸共死ねぇえええ!」 声が枯れるくらい叫び、地面のできるだけ持てて大きな岩を拾い、アドレーヌの腹めがけて投げ飛ばす。だけど、やはり体が小さく腕力も足らないから当たらない。 「ごめんなさい…ごめんなさい…リボンちゃん…」 嘘泣きを始めた!!! あざとい気持ち悪い女! 謝るなら最初からするな。目の前の人間という種族に気持ち悪さを抱き、わたしは飛び立った。 今まで仲良しこよししたのが嘘見たい。なんであんなやつって気づかなかったのだろう。きっと騙されていたのね。 そうだ。カービィに会おう。彼はきっと被害者だからまともよ。 わたしはすいっと飛び、カービィの家の方に飛んで行った。 カービィの家の前に、カービィが座っていた。あ、もう空き家なのか。アドレーヌに勝手に売り払われたのね。でもやっぱり納得いってないのか、家の前までは帰ってきちゃうんだ。 「カービィ…」 「…リボンちゃん。やあ、いい天気、だね」 かわいそうなカービィ。あのバカな女に騙されて、子供なんて腹に閉じ込められて。酷い女だ。あんなのとわたしは今まで友達だったなんて信じられない。 カービィは悲しそうに笑っている。 「…家にいない間。どこいたの?」 「死んだウィスピーの木の上に暮らしてたの」 「…そっか…だから服も体も汚れきって…。ごめんね。僕のせいで。帰る場所をなくしちゃって」 ああ、やっぱりカービィは被害者だったんだ。勝手に強姦されたんだ…。なのに、アドレーヌみたいなゴミを庇って…。いや、子供のためなのかな…? 「いーのよ。それより。子供ができちゃったのね。あの時のせいかしら。それ産まれたら…結婚させられちゃうんでしょ? …もう、世界を冒険できなくなっちゃうね…」 カービィは少し顔を上げる。少し、はにかんだ後、すぐに顔がくしゃっとなり、涙をボロボロと流し始めた。 「僕、…ごめんね。みんなのヒーローでいたかったのに、お父さんに…なるみたい…もう…世界を…みんなを守ること、できないのかもしれない…っ」 遠いところに冒険、行けなくなっちゃうのかな…。とさらにしゃっくりまじりに呟く。 そうだね。昔みたいに楽しく冒険できないね。一人の人間の女のせいで、カービィの人生がめちゃくちゃにされちゃったね。可哀想に。本当に、可哀想。 そこでわたしは、ピンときた。ある提案をカービィに持ちかける。 「ねぇ…カービィ。わたし、しってるんだけど」 「…、え…?」 |