小説

□ヰゑUヶヱル
1ページ/1ページ









 ただただ魅了されるだけの素晴らしいこの世界に何の文句も不満もない。
 ただ、君さえいなければの話だけどね。




 鏡の前でコンコン。とノックしてみた。すると、ひょこっと灰色の仮面を外したままの青年がそこにいた。

「リンゴがあるんだが…食うか?」



「雨が降ってきたな…」

 "私"が呟くと、"私"に似たそれはさっきまで食べていたリンゴを口に含んだまま、ああ、とだけ呟いた。
 雲の流れはそのうちゆっくりしたものになり、雨のザァザァ降りは衰えを見せることはなかった。

「…こんな天候になるとは思いもよらずか…。シャドーに買い出しに行かせてしまったな…悪いことをしてしまったかな」
「そうなのか、…カービィも同じく、今往生しているのだろうか」
「なんだ?やはり鏡のように運命もそのまま同じように左右されるというのか?」
「サァな…。そんなこと聞かれても私には分からん…。全くな」

 そんなつまらない会話をしながらきっとどこかで雨宿りでもしているのだろうか、と思いつつ、机の上のリンゴをかじった。

「そういえば」

 私の姿をしたそれは突然顔をふっと上げて、私の顔をじとーっと見始めた。

「…ぉぃ、ヒトの顔をそんなにじっくりと見るな…」
「私の顔だ。文句を言うな」

 正論を言う彼に出る言葉もなく、体を硬直にさせたままジロジロ見られるのを耐えていた。
 ただ、今私は仮面をしていないだけあってこの向かいの私に何の恥ずかしみも感じていなかった。のだが…。やはり何でも素顔を見られるのは恥ずかしい。

「…流石にもうやめてくれないか?さもなくばシバくぞ」
「なぜだ?ただ私は私に見ているだけなんだ。邪魔をするな」

 それを聞いた時、私は何の躊躇いもなく奴の頬を叩いた。所謂自分のだ…。
 だがそれが届くことなく、正面の鏡がキラキラとはじけ飛んだだけで無効に危害が加わることはなかった。痛いのは私の手のひらだけということになった。

「何をするんだ?…おい、血が出ているじゃないか」
「…ッ、構うな。すまない…」

 何故私がガラスを殴ったのか?そんなこと全く分からなかった。ただ、向こう側の私は割れた鏡のヒビの間からじっと悲しそうな目で私の覗く姿があった。

「…何を見ているんだ。もうあっちへ行け」
「お前…今、自分に嫉妬したのか?」

 分からないことを呟かれて呆然とした。

「自分にって…何だ、それは」
「そのままだ。私は鏡に映る私(おまえ)に見とれた。するとお前は鏡を割った。…これでも分からないのか?」

 正直何も答えたくなかった。分からないからとかそういうのではない。

「見ろ。鏡が粉々だ…。魔法の力がなくなってもうじき普通の鏡になってしまう」

 そう彼は言ってそっと鏡に触れた。すると、彼の触れた部分からすーっと消え、代わりに私の部屋がうつされていった。

「ま、まて!」
「私がやっているんじゃない。鏡の魔法が解けているから私の世界が映らなくなっているんだ」
「しかし…」
「大丈夫、私が消えているわけではないんだ」

 彼の姿も徐々に消え、私の姿が映し出されてきた。
 彼の手を当てている場所に私も手を当て、まるで永遠の別れをしているかのような気になった。

「まいったな…これでは恋人同士のようではないか」
「出来るならまだそなたの傍に居たい…。唯一私の気持ちを明かせる…そなただけに…」
「…。嬉しいことを言ってくれるな。気にすることはない。私の鏡はひと欠けと割れていない。だからメタナイト…お前の傍へ………」

 鏡に映されていたのは自分だった。手を当てているのも私。彼の姿は…ここにはいなかった。

 彼は最後、何を言いたかったのだろう。私はそこに座り込んだまま、長い時間がたったような気がした。

 後ろから扉をノックする音がした。私の返事なく扉は開き、"私"の声がした。

「その鏡が割れた今魔力はなくなったが、他の鏡は割れちゃいないんだ。だから私は、ここに来ることはいつだってできるんだ…。
 待たせたな…」

 私は振り向き、その扉の前に立っている彼にに泣いて飛びついた。







 真ん中あたり私の頭がどうかしていたんでしょうか。
 わけわかりません




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]