小説

□独りよがりの愛されたがり(上)
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 いつか聞いた話では、この世界は間もなく果て、地は自然に還り空は赤く染まり、生命は皆死に絶え絶え、空気は星の真裏を通過して美しく蔓延ると言われている。
 夜の月は瞬く間に金の色に染め上げられ、太陽は冷たく燃える銀となる。らしい。

 それまでに私があなたを愛せたなら

 どれほど幸せでしょうか?




 




「満場一致の決断により最終判決を言い渡すぞい!よって、罪人***は…!!」

 ざわめかしい群衆の感激の声は村一帯を覆い、その後に判決を言い渡された罪人とは思い難い男を逆さ吊りにして処刑していた。

 ここプププランドでは今、猛烈なまでの『処刑ブーム』だ。
 村の仲間一人をターゲットにし、何か犯罪を起こすよう促した後ターゲットに犯行を犯させる。
 しかし、何故あの虫も殺せそうにない男にどうやって犯罪を犯させたというのだろうか…。

 私には関係のないことだからどうでもいいんだか…な。

「さぁ、皆の衆!これにて今日の処刑は終了ぞい!」
「なお、現在女、子供、老人に構わず処刑されたい者の応募、どしどしと受け付けているでゲス!死にたい奴!神へ召されたい奴!目立ちたい奴はこぞって、我らが執行部、デデデ城に手紙を送るでゲスよ!!」

 一段と歓声は大きくなり、集まる者全てが手を挙げ始め、自ら命を絶とうとしている。

「なんという様だ…」

 たかが一時期のブームに…ましてや命を賭けたお遊び事に幾人の命が葬り去ろうとしている。

「哀れなものだ…。陛下も…、国民も…」

 その哀れな者共を暫し見つめた後、踵を翻し、とあるところへ向かった。



 温室のように中は暖かく、小さな植木鉢から多種多様な花々が咲き乱れ、まるで先程とは別の場所にいるような気になった。

(ここはとても落ち着く…)

 青い芝生を渡り、花や木々が高く積もるように在る場所の丁度中間地点…。小鳥の入れ物のような骨組みの建物と真ん中に白いベンチがあった。
 私はまるで自分の所有物かのように丁寧に花の花粉をぱっぱっと二、三度掃い落し、そこの右端に座った。

 小さな時計の音と…花の触れ合う音がする。
 私の今居た場とは全く世界や次元が違うそんな錯覚を唯一見させる。馬鹿な愚民はいない。間抜けな国王はいない。私だけの世界…。

 後ろの扉が小さく開く音がした。
 予想通り…、あの子がまた来たようだ。

「めたなぁと!どこ〜?」

 背が低い分私を見つけることが簡単にできないのであろう。私は暫く悪戯がてらにあの子に見つからないよう身を屈めた。

「めたなぁと!めたにゃ…
 …ゥ…うああーーーーん!!」

 早くも泣き出した声が聞こえてすぐにひょこっとあの子の前に姿を現した。

「私はここだ。カービィ」
「!めたなぁとぉ!」

 可愛らしい笑顔と笑い声で私に駆け寄ってくる。何て気分の移り変わりが早いのだろう。もう泣き止んだのか。
 私に何の断りもなくベンチの上に上り、満足げな顔をして私に向かって笑った。

「あのれ、ぼくめたなぁとに会いにきしゃの!」

 全く舌の足りていない喋り方で私にすり寄ってくる。

「よく私がここにいると分かったな」
「ううん、知りゃにゃかったよ。」カービィはぶんぶんと顔を振った。

「でもね、ぼく、寂しかったり悲ちくなったりしたりゃここに来りゅの。そしたりゃね、いつもここにめたまぁとがいるの!」
「悲しくなったり…?」
「うん、あのね。
 ぼくのお友達がね。お空に行ったの」

 少し寂しそうな表情でカービィは小さな身の上話を話し始めた。

「デデデのおじしゃんが、突然遊んでたぼくたちの所に来てね。なんだかとっても難しいことを言って何処かに笑いながら言っちゃったの。次の日かりゃその子、とても暗い顔をしてて、ずっと死にたい死にたいって言ってたの。
 そしたらぼくの知らない誰かをハサミで刺しちゃって…。血が沢山でてたの。刺された子、助けてってずっと言ってたんだけど…ぼく、何もできなくて逃げて…。
 そしたら今日…ぼくのお友達がさつじんざい…?っていうので、火の中に入れりゃれてずっと泣いた声がしてたの。ぼく、デデデのおじしゃんに助けてあげてって言ったんだけりょ、おじしゃんはぼくのお友達はお空に帰っただけだって…。
 でもぼく、そんなわけないと思うの。だって、あの子の体はずっと火の中にあったのをぼくは見たから…全然お空に行ってなかったんだ…」

 カービィはさっき処刑された者の事を言っているのだろう…。大きな涙の粒を溢れ出し、悲しみだした。――安心した。この子はちゃんと…心が分かる子で…――

「おじしゃんはおかしいよ。何で村の人を赤い涙で一杯にさせてるの?…ぼくにはぱぱもままもいないからわからないけど、きっと皆ああやって笑ってる、心の中では真っ赤な涙で一杯にしてると思うんだ。
 だって…おじしゃんに逆らうと心の中の真っ赤な涙を流しちゃうからだと思うの。
 僕ももうちょっとしたら…」

 言葉を濁し始めたところで、突然扉がバンッと開く音がし、カービィは身を震わせ、さっとベンチの後ろに隠れた。
 正面の扉から入ってきたこの温室の空間には全く似合わない…陛下とエスカルゴンが入ってきた。

「カービィ、そこにいるのはわかってるぞい!おとなしくわしらの所に来るぞい!」

 いきなり怒声を上げ、部屋にキンとした音が反響した。
 一体どうしたことだろうか?私にはこの状況が全く飲み込めず、様子を窺うように陛下らを見ていた。カービィはゆっくりとベンチの影から出て来た…。さっきの表情から一変、いつものピンクの肌は薄れ、とても不安そうに、恐ろしがるように青ざめていた。

「全く…。手間をとらせるんじゃないぞい」
「お、おじしゃん…ぼく…いやだよぅ…」
「この期に及んでまだ我が儘を言うんでゲスかぁ?!少しは大人になるでゲス!自分が犯した過ちを素直に認めるんでゲス!」

 エスカルゴンは前に出てカービィの手を引っ張った。流石に冗談や悪戯の域を超えていることをひそかに感じ、ベンチから降りた。

「ぅううっ…、痛い!はなしてぇっ!!」
「おわっ…?!とっ!!」

 カービィがエスカルゴンを押しのけた先には花段がぞろりと立ち並んでいた。カービィが声にならない叫びをあげた瞬間花はエスカルゴンの重みでそこら一帯が潰れ、花弁はふわりと儚く舞い上がった。

「いってぇ!突き飛ばすんじゃないでゲスよ!」
「ぁあっ…ぁ…お、おはな…ぁッ…」
「…、カービィ。そんなに花が大事なのかぞい?」
「……!!!!やぁあああ!お願い、おじしゃん!苛めないで!!おじしゃん!!」

 かーびぃがさらにあおざめたのをみたしゅんかん、大人げない二人はどんどん辺りの花を引き千切り始めた。

「ぃ、やアアああああああああああああ!!!!!!??」
「なんぞいなんぞい!何も泣き叫ぶことはなかろう。また埋めればいい話だぞい!」
「ふんっ!最初に花に気を求めず私に謝りさえすればしなかったのに、馬鹿な奴でゲスね〜」

 エスカルゴンは花を荒らし、蕾になったばかりの花をぐしゃぐしゃと無残にも踏みつぶした。

「やらぁあああ!!お願いだからっおじしゃ…ぇっ、やめれ…ぅえっえぐっ…ぁアぁ…」

 陛下の服を引っ張りながらカービィは必死に抗議する。だが、陛下はカービィの声など全く無視してさらに花をブチブチとちぎる。

 私の中で煮えたぎるものがあった。
 私はとうとう二人の下らない行為に対しての緒が切れた。

「貴方達はいったいさっきから何をしているんだ!少しも恥ずかしく思わないのですか!!こんな小さな子供相手に、絶望を与えるような真似をして!!少しは考えてみたらどうなんだ!!」

 それを聞いていた陛下は暫く私に顔をじろじろ見た後、怪しげに笑い出した。それもこの温室がキーンっ…と反響するほどに…。

「メタナイト。お前は分かっていないぞい」
「なっ…」
「確かにこれは大人げない行為だ。だけどこれは…料理でいう調理中なんだぞい」
「…、まさか…貴方は…」
「お前も知っての通り、今この村、いや、星は『処刑ブーム』なんだぞい。なんで今日の罪人も、昨日の罪人もギロチンや火あぶり、釜茹で窒息死に抵抗しなかったか分かるか?
 答えは、な…。

 自殺させたくなるようにするんだぞい」

 馬鹿な…。何てことだ…。

「カービィはこの後何らかの犯罪を犯してこの苦しみから逃れようと死を望むことだろう・
 まぁ、次はカービィの番だからさっさと死ぬことが許されるぞい」
「カービィの番…?!」
「メタナイト、お前はカービィの次に死ぬようにしてやってるぞい。だがしかし…あまり絶望にくれている様子はないな…」
「あんな子供のマネごとで私が死にたくなるとでも思ったのか。
 それより、陛下、…お願いがあります」

 私はある程度の心の強さを自分で見込んで決心をした。

「カービィをその死の順番から外し…、代わりに私を次の番にしてください」








続きます




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