小説

□()、カッコ、「」
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 僕はいつの日からか目隠しをさせられるようになった。よっぽどぐるぐる巻きに目の周りを包帯か布で巻いてる所為か今が朝なのか昼なのか、一切遮断され全く分からなかった。

「おはよう、カービィ」

 すぐそばでメタナイトの声がして、そちらに振り向く。そうか、朝だったんだ。

「うん…、おはよう。メタナイト」

 僕はいつもそれとない返事を返す。
 僕は毎日のようにやる同じ質問をする。

「メタナイト…、これ、もうはずしていい?」

 ボクが同じ質問をすればいつものように同じ答えが帰ってくる。

「それではつまらないだろう?光の世界がもっと映えるように見たいならもう少しつけていなさい」

 言い訳しようとしてもいつも交わされる。だからってはずそうとしてもきつく縛っていて僕にははずせない。それにむやみに歩くのは危険…。僕にはこれを外す術もなく、ただ世界の変わるさまを全く見ることが出来ない身になってしまった。

 次第に感覚もおかしくなり、何に触れているのかよくわからないし、食べてる物の味も無味のような気もしてきた。嗅覚も同様、分かりずらい…。

「ねぇ、この目隠しを外してくれないなら、代わりに僕、部屋から出たいよ!最近ちっとも外の風に浴びてないからどんなのだったかもうわかんないよ!ねぇ、光を浴びさせてよ」
「…?何を言ってるんだ、カービィ。この部屋は元より天井がガラス張りで光を当てている。実際ここは空気が悪いからいつも窓を閉めているだけで、そなたの言う場所そのものなのだぞ」

 一瞬、メタナイトの言葉を疑ったが、そういえば僕は大事なことを忘れていた。僕はほとんど感覚がおかしくなってるからそのことさえ気づかなかっただけなんだ。

「まぁ、その目隠しをしていれば夜か朝か分からんからな。感覚も鈍るだろう」

 メタナイトは笑いながら何処かへ行った。
 鈍ることを…知っているのならはずしてくれればいいのに…。


 ――何か見てはダメなものでもあるっていうの?


 いや、まさか…。でもそうだとしたら…。
 今まで部屋から出るのは僕の判断で危ないと思い出なかったけど…。ちょうどいいや、今はメタナイトも居ないみたいだ。

 ふらふらと僕は起き上がり、冷たい壁をつたいながら扉を探す。

(普通の部屋にしてはとても冷たい壁だなぁ…。まるで水打ちしたばかりの石か何かみたいだ)

 僕はツンとそう思いながらぺたぺたと壁に触れながら探す。すると、右に右に触れた手がさっきまでの壁と全く違った感触と感覚を覚えた。

(他の壁に比べてこのあたりの壁は最も冷たい。それにとっても固い。鉄…?)

 もう少し探っていると、何かでっぱりの様なものに触れた。ドアノブのような形状…。まさしくこれだろうか。
 軽くひねり、内側に引っ張ってみる。金属の擦れる音は甲高くだけどすんなりと開いた。
 ひやりとした空気が頬に当たり、少し違和感を感じた。

(さっきメタナイトは言ったよね…ここは空気が悪いから窓を閉めてるって)

 部屋の空気なんて二度と吸えなくなるくらいとても澄んでいるし、部屋の中よりずっとマシだった。

(怒られることなんてないよね…)

 好奇心から僕は46年(人間でいう約4年)ぶりに部屋を出て壁に手を這わせながら進んでいった。

 壁をペタペタ這いながら進んでいたら、途中からスカスカ空気に触れる場所があった。

(…? 曲り道かな)

 曲り道と思わしき道に進もうとしたら思い切り足のつま先をぶつけた。無茶苦茶痛い。

(いたぁ〜っ!何?壁じゃないのに足をぶつけるってことは…あ、階段か)

 僕は少し照れながらひょこひょこと階段をあがっていく。

(今までなんとも思っていなかったけど…どうしてこんなに静かなんだろう…46年間の間…この城はどうしちゃったんだろう?)

 するとそのうち…明りのような感覚が目隠しに伝ってきた。…ぐるぐる巻きにされていたわけじゃなかったの?
 もしかすれば、元々あの部屋事態に光を差し込ますものがなかったんじゃあ…。だから空気がとっても新鮮に………。

 …そんなわけあるもんか。メタナイトが…僕のことをいつも補助してくれていたんだ。それなりに感謝はしているんだ。もし僕をその…俗に言う監禁のようなことをしていたとしても…信じよう。
 階段は終わりを告げ、最上の場と思わしき場所に僕はこつ然と立っていた。

「やっぱりあの部屋は光なんて元から入っていなかったんだ…。窓もない…、空気は汚れてとっても苦しく…、メタナイト以外の生き物は一人と僕の所へ訪れなかった」

 この身がそれを証明してる。

 ふらふらと前へ歩くと何かを踏み、痛みが走った。僕は屈んで手探りでそのさっき踏んだものを探し、手に取る。
 意外に大きく、平べったい。たまにちらちら光が反射してくることからおそらくこれはガラスだろう。でもこんな大きなガラスの破片がどうして廊下に…。

 僕は恐る恐るその破片を持って…布を軽く外側に引っ張りその間にガラスの破片を滑り込ませた。
 外の世界は…変わってないでほしい。みんなの顔が見たい。

 ガラスの破片で布はたやすく切れた。

 眩しくて目をギュッと閉じる…。
 暫くして目が慣れた後に…僕は瞼をそっと開けていく。

 足の痛みなんか感じないまでに…。光が瞳孔を蝕んでいても…僕はその光景に目を閉じられなくなった。

「な…に?これぇ…ええええ…!!」

 目に映った光景は懐かしさのもなく破壊された村だった。あの緑の面影はどす黒い赤と茶に埋もれてなくなっていた。
 今いる城も後ろを振り向けば全て瓦礫の山になり、灰まみれの玉座が斜めになって埋まっていた。

「嘘に来まってる…僕は…悪い夢を見てるだけなんだ…。こんな醜い場所が…歪んだところが…!!」
「カービィ」

 声がして後ろを振り向いた。表情一つ崩さないメタナイトは…そこに居た。

「メタナイト!これは…何があったの?」
「別に何もなってはいない。私が掃除しただけのことだ」
「掃除…?!…そんなふうに言いまわすのは…もしかして…君の仕業…なの?」

 嘘だと信じてる。
 馬鹿げてる。こんなの…メタナイトがやってるわけがない…。

「…、カービィの目は汚れてしまったな」
「…?」
「せっかく綺麗な綺麗な…カービィの目がこの汚れた光景の所為で汚れた…。カービィ。とっても悪い子だ」
「メタナイト…?何を言って」

 次の言葉を放とうとした瞬間目の前の男は高速に動き、僕を押し倒した。

「いたぁっ…!」
「悪い子。汚い。目。汚い。カービィ。目。目。汚い。かわいそう…」

 メタナイトはぶつぶつ呟いてから僕の右目に手を当てた。
ググッと瞼を開かされ…

「やっ、やめてっ!ギ・・・痛い!イタいぁぎゃ!ぃぎゃあああああああああ!!!!」

 目玉を抉られ、気持ちの悪い激痛と違和感が体を伝った。
 そして左目も手を当てられた。

「待って!お願いだからやめて!」
「私はいつでも正気だ…。これはカービィの為なんだ。悪いバイ菌がカービィの目に入っちゃったから…早く取り出さないとカービィは腐ってしまうんだ」

 どうしよう…!正気じゃない…!
 なんて思ってる間に左目も簡単に抉り取られた。僕の目は本当にもう何も映さなくなってしまった。こうなるくらいなら外に出なきゃよかった。外なんかに…。

「ああ、でも駄目だな。こんな汚い空気も吸ってしまったらカービィは内臓もやられちゃってるな」

 その辺りに落ちてたガラスの破片を手に取り、僕に呟いた。

「すぐに取ってあげるからな。何も心配することはない。痛いのは少しの間だけだから…。私の可愛い可愛いカービィ」

 どうか汚れないでくれ。

 ガラスが突き刺さる瞬間僕は気を失った。












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