小説

□『ら』
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 朝からどうしてか体調が優れない。熱でもあるのかと疑って体温計で測ってみても別に異常はないようで、ただグタァッと体が非常に重かった。
 病院に行ってみれば「風邪ですね」とすんなりと言われ薬を処方され、お大事にと医者は呟いて私に手を振っていた。

 銀河最強と恐れられていた私が何故こんなことになったのかはわからない。風邪を患うにしても特に不規則な生活はここのところまったくしていないし咳も出ない。
 あの医師は事実を述べたのかさえ危うかった。

「あれ、ギャラ…」

 道中ばったり出くわしたのは今や私の恋人となっている、雨も降っていないのに傘を差しているカービィがいた。日傘にしては太陽の光を全く遮っていないビニール傘を差している。

「どうしたの?風邪でもひいたの?」
「え…あ、そうらしい」

 どうしたのかと聞きたいのはこっちの方だ。別に傘をさす必要なんてないのに…。
 だがまぁ、カービィの事だ。何か計画があってやっているだけかもしれない。私は気にすることを止め、傘について触れることなく話し始めた。

「今朝方からどうも体調が優れなくてな…あまり気分がよくないんだ」
「まぁね。僕もそうだよ。…最近の事件の所為じゃないの?またあったんだってね。通り魔事件」
「…通り魔?」

 知らないワケではなかったのだが、つい疑問視した喋り方をしてしまった。
 …最近、この平和な村に夜遅く不審な者が表れて、住民をどんどん惨殺しているという事件だ。…った、ハズ。
 犯人はまだ捕まってないという話らしい。

「僕…怖いよぅ。何時殺されるか分からないなんて…イヤだよ」
「…何を言っている。カービィ、そなたが襲われそうになったら私が助けてやろう。どうあってもだ」
「…!
 …。ありがとう」

 優しい目をして少しとろんとした頬はバラ色に染まり、少し照れているようであった。
 きっと、その通り魔を私が殺しさえすれば私の疲れも取れて楽になるだろうし、カービィも不安な日々を過ごすことはないだろう。
 カービィは途中私のせいで中断していた買い物をするため私から離れ、じゃあね。と言って市の方へビニール傘を差したまま行ってしまった。
 今夜、被害によくあう場所に行って真相を確かめてみよう。そうすれば通り魔も姿を現すだろう。



 被害の多いという街灯が一切ない坂道に来た。確かにこれは犯罪者にとってはとてもいい場所かもしれないな。
 私は近くの草原に忍んで、通り魔が表れるのを待っていた。草の茂みは風にそっと靡き、コォォと風の恐ろしい唸り声が天に向けて走っていた。

(ここを通る被害者には悪いが…囮となってもらおう)

 坂にはカエルが小さく跳ね、どこかの水溜りにポチャリとその身を隠してしまった。
 鈴虫の鳴り出す頃には月は真上を通過し、道がある程度月明りで見えるようになっていた。

(なかなか姿を現さないな)

 そろそろ眠くなり、疲れてきたので諦めて帰ろうかとした時だった。
 坂下の方から歩く音がしてきた。瞬間身を屈め、元の定位置に帰って草の茂みの間から様子を見ていた。
 坂下から来たのはどうやらワドルディらしい。

(大量の荷物を持っている…。この坂を越えたら確か村から出ると聞いたから、きっと急な出張にでも出されてしまったのだろう)

 現在、大体午前3時とあまりにも時間が時間なので深く考えず、ワドルディがこの坂を越えたら帰ろうと思った。
 なんだかどっと疲れが出たみたいだ。でも私は、この光景を何度も目にしたような気ですらいる。長い間ここに居たせいだろう。

 私はワドルディに背を向け、坂を下ろうとした。どさっと物が落ち、ゴロゴロと物が坂の下に下る光景が見えた…。まさか…現れたのか?!

 剣を振り上げたその通り魔は異様にも傘を盾にし、返り血を一切浴びないようにしていた。
切り殺されたワドルディはゴロゴロと坂道からリンゴを落としたかのように転げ落ちて行き、やがて闇に飲まれてその姿は見えなくなっていた。

「ああ、ギャラ!」

 その通り魔は傘をたたみ、道の上に投げて私に近寄ってきた。

「か…びぃ…」
「また僕から逃げようとしたんだね!もう…、ギャラってば、諦めたらどうなの?」

 諦める…?
 諦めるって、なんだ?


 ふと、あることが脳裏によぎった。
 私は医者に処方された薬は…何だったかだ。今なぜそんなことを思い出しているのか私には全く訳が分からない。

 ただ…私はこの物語をねつ造していることは紛れもない…事実だ。
 私は医者に渡された薬は、言われた病名は…


『恐らくですが…PTSD(心的外傷後ストレス障害)ですね。これを治すには長い年月がかかります。とにかく今は一旦、精神安定剤を出しておきますね』


「僕を置いてここからいなくなっちゃうなんてダメだよ。見たでしょ?今のワドルディ。君もああなりたくなかったら僕をとことん好きになってよ。村から出て行こうとしないでよ」

 もっと早く気付くべきだった私が悪いのか。私をこんな病気にさせたこの子が悪いのか…。
 カービィは私に抱き着いて離れないものだからそれ以上は考えられなかった。

「…分かった。分かったからもう誰も殺さないでほしい…」
「…僕が好き?」
「ああ、好きだ」
「嘘ついちゃだめだよ。もし嘘ついたら…また誰かを殺しちゃうんだから」

 無邪気な瞳で私を見透かそうと見つめる少年から目をそむけ、私は坂道を下って行き、自分の自宅に戻った。

 あの子には計り知れない力がある。私を殺そうと思えば容易いことなのだろうか。それに、あの子がまさか犯人だったなんて、私はとても恐ろしい。今も手が震える。
 とにかくもう眠ろう、なんだかとても疲れた。恐ろしかった。私はいつか…あの子に殺されるのか…。



 朝からどうしてか体調が優れない。熱でもあるのかと疑って体温計で測ってみても別に異常はないようで、ただグタァッと体が非常に重かった…。








1時間半程度で書けました。
 その分クオリティが低いです。いつもそうですけどね。




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