恋桜鬼
□山崎の小さな恋物語(オマケ)
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巡察から戻ると、馴染みの薬屋の娘が、新選組に仇なそうとする不逞浪士に襲われ、怪我をしたとかで屯所に連れてこられていた。
「大丈夫か?」
彼女が山崎に部屋へと案内される際、すれ違い様に声をかけた。
「斎藤さん…。はい、山崎さんが助けて下さいましたから」
いつものようににこりと微笑む彼女に、隣から山崎が眉をしかめる。
「?」
首を傾げて山崎を見る。
「何が大丈夫なんですか!?オレのために嫁入り前の娘さんが、身体に刀傷残すことになったんですよ!」
珍しく声を荒げている山崎に、桜が苦笑していた。
「…なるほど……」
なんとなく、察しがつき、思わずぼそりと呟いた。
「?」
ブツブツ小言を言う山崎と首を傾げる桜を残し、俺は自室へ戻った――。
皆で夕食を取っていると、いつも以上に原田達が騒ぎ、副長の怒鳴る声に、沖田が肩をすくめている。
そんな光景の中、彼女は穏やかに微笑んでいた。
彼女を慰めようとして騒いでいるのは見え透いていたが、さすがにやり過ぎだと思いつつ、傍観していた。
風呂に向かう途中、山崎の部屋の前にたむろしている原田達を見かけた。
襖に耳を押し当てている様は怪しげで、原田、永倉、沖田の背後で、藤堂が頭を抱えている。
「?」
首を傾げながら近づくと、永倉と原田が拳を握りしめている。
「お♪いよいよだね♪」
「ちょ、もう本当に止めとこうよ。左之さんも、新八さんもさぁ…」
楽しそうな沖田の声に、藤堂が必死に訴えている。
「バカやろう、平助!山崎が漢になれるかの大事なところだぞ!」
そう原田が返せば、
「ちきしょう……。羨ましいぜ……」
と、永倉がぼやいている。
「……覗きか?」
こちらの気配に気づかない連中の背後で、そう口にする。
「「「「!!!?」」」」
かなり驚いたのか、原田達はそのまま襖に倒れ込み、室内の様子が明らかになる。
山崎の体の下に、着物が乱れて肌を曝した桜がいた。
どうやら二人の濡れ場を覗いていたようだ。
呆れてしまい、息を吐き出す。
「き…きゃああぁっ!」
乱れた着物を直しながら、桜が部屋を飛び出す。
「……」
すれ違い様に、微かに漂う血の匂いに、手当ての途中だったらしいと推測した。
「あっちゃあ〜。桜ちゃん、逃げちゃったよ」
沖田が苦笑しながら体を起こす。
「いや、逃げるだろ。普通…」
原田が頭をかきながら、立ち上がる。
「くっそぉ…。桜ちゃんは山崎狙いかよ……」
下敷きの戸をバンバン叩きながら、永倉が悔しがっている。
「みなさん、覗いてましたね……」
静かにそう言いながら、山崎が立ち上がる。
かなり殺気をまとっている。
「……桜の手当て。まだのようだったが……」
ぽつりとそう呟けば、山崎ははっとして薬箱を手にした。
「…このことは後でじっくり伺います…」
そう言い残し、彼女を追いかけていく。
「は…、一くん。このことは土方さん達には…」
そう藤堂が口にした時だった。
「てめぇら……。何の騒ぎかきっちり説明してもらおうじゃねえか……」
眉間に皺を寄せ、仁王立ちした副長がそこにいた。
その後、原田達がどうなったのかを俺は知らない――。
終わり♪