ピエロと電脳世界
□13 落ち着く場所
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「カンナちゃんの部屋はここよ」
昼飯のあと、はる香さんは私達の部屋に案内してくれた。
私達にあてがわれた部屋は熱斗くんの隣の部屋で、人一人が住むには十分の広さだった。
「急いで片付けたんだけど、今まで物置部屋として使っていたからまだ少し汚くてごめんなさいね?」
「十分ですよ。部屋があるだけでありがたい、掃除は私がやります。はる香さんありがとう」
「いいえ!何かあったら私を呼んでね?手伝うわ」
「はい、ありがとうございます」
はる香さんが部屋を出て行った後、少し埃が溜まっている場所を軽く掃除して自分の荷物を広げる。
といっても、もともと日本に長く滞在する予定ではなかったので、私の荷物は必要最低限のものしか無い。
『成り行きで日本に留まることになったけど、兄さんの情報、もらえる事になってよかったね』
「その分働くんだけどな」
『“働かざるもの食うべからず”・・・だよカンナちゃん』
「さーせん」
だけどねエシェロス、実際に働くのは君なんだからね?
それにしても、何で引き受けちゃったかなぁ、ウイルスバスティング。
そりゃ確かに兄さんの情報はおいしいよ?私達が今まで散々探し回った物だからね。
だけどだからって、エシェロスを危険な目にあわせてまで欲しいかっていうと悩むところではあるんだよね〜。
もしかしたら、科学省はたいした情報を得られないかもしれないし、兄さんの情報を得る前にエシェロスに何か起こってしまうかもしれない。
極端に言えば、エシェロスと引き換えに兄さんが帰ってくる事になるかもしれない。
それだけは嫌だ。私の中の最悪のパターンだ。
たとえ兄さんが帰ってきてくれたって、エシェロスがいなきゃ意味が無い。
エシェロスを失うくらいなら私自身が消滅した方がマシだ。
出来れば3人揃ってまた昔みたいにすごしたい。でも、きっとそれは難しい。
せめて兄さんとエシェロスの2人が笑っていてくれれば、私はそれでいい。
2人の笑顔が見られるなら、私はどうなったって・・・・・・
『カンナちゃん』
「ふぉうぇ?!!・・・・あ、なんだい?エシェロス」
『今、変なこと考えてたでしょ』
「ん?!べ、別になぁんにも考えてなんかいないよぉ〜?熱斗くんの部屋にエロ本探しに行こうかなとか全然考えてないよ?」
『健全な小学5年生がエロ本なんか持ってるわけないでしょ?!!』
「わからんよ〜?最近の子ってば思春期来るの早いじゃない」
『11歳で思春期が来るのはカンナちゃんくらいよ』
「エシェロスちゃん今私のハートに鈍痛が走ったよ」
『だいたい、人の部屋に勝手に入るのはマナー違反よ』
「さーせん」
あれ?なんかさっきも私エシェロスに謝ったよね?
デジャヴ?
『そーじゃなくてっ!!』
「おぉう?!な、何かなエシェロスちゃん」
『さっき、カンナちゃん変なこと考えてたでしょう?』
「変なことと・・・・いいますと・・・・?」
『カンナちゃんは少し自己犠牲に走る傾向があるんだよ。兄さんがいなくなったときだってそうだった』
エシェロスに言われて、兄さんがいなくなったころのことを少し思い出した。
「兄さん、ごめんね・・・・・・!!わたしが・・・わたしにもっと力があれば・・・・・・・兄さんを救えたかもしれないのに・・・・・・・!!ごめんね兄さん・・・・。本当に・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・・!!!!」
けど、なんだか胸が苦しくなってきたので思い出すのをやめた。
『今回だって、カンナちゃん相当無理してるわ。見ていれば分かる。何年あなたのナビやってると思ってるの?』
エシェロスは笑いながら私に言った。
『だから、もしカンナちゃんが、私と兄さんの為にまた自分を犠牲にしようとしているなら、私はカンナちゃんを止めるし、本気で怒るよ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・自己犠牲なんて、考えてないよ。エシェロスちゃんってば心配性だなぁまったくww」
『ちょ、わ、私は真剣に・・・・・!!』
「うんうん、エシェロスの気持ちはちゃんと受け取ったよ。大丈夫、私はそう簡単にくたばったりしないよ」
エシェロスに怒られるなんて嫌だもん。
エシェロスに嫌われたらそれこそ私くたばっちゃう。
「だから、大丈夫。ね?」
『・・・・・うん!』
うん、いいお返事です。
とりあえず、今は兄さんの消息を掴もう。
考えるのはそれからでも遅くないしね。
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