海賊
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"ああ、エース?すごくいい奴だよ"、 " エースくん?かっこいいよね! 彼、ポートガス"D"エースを知る人はみんなそう言う。
あたしは中学の3年間、彼と同じクラスになった事はない、彼はいつもクラスの中心であり、学年の中心だった。あたしもそれなりに目立ってはいたけど、彼には敵わない。
なんの接点もない彼とあたし、でも、気付くとエースとあたしは結構近い距離にいた。
中学時代、体育祭で応援団だったあたし、エースも応援団で放課後あたしと同じ応援団役員で遅くまで残ってあたしのクラスの役員男子とバカやってるエース達を笑いながら眺めていたり、カラオケで偶然会っていきなり部屋に乱入してきたり…あたしの友達が彼に話し掛けてノリであたしにも話し掛けてきたり…彼は気さくな人だった。
「お、」
「あ、エース」
高校生になってからある切っ掛けでエースと話のツボが合って仲良くなった。
それからよく駅で会うとお互い声を掛け合っていろいろ話していた。
「大丈夫か?」
「え…?」
「ほら、前に男に付きまとわれてるって言ってただろ?」
仲良くなる前まではただの"いい奴" "頼れるムードメーカー" "モテる"そんな風にしか思っていなかった。あたしの友達でもエースに惚れて告白して玉砕してるのを見てきている。
あの頃のあたしはよくわからなかった、どうしてみんな彼に恋をするのか…でも今ならわかる。
"俺でいいなら、いつでも話聞いてやるよ"
あんまり仲良くなんかないあたしの愚痴みたいな話をエースは親身になって聞いてくれた。
普通、そんなに仲良くないような女に愚痴をされるのは気分がいいもんじゃない、なのにエースは最後までうんうん、と聞いてくれた。
あたしは、今までなんとも思ってなかったそんなエースに呆気なく恋に落ちた。
「…大丈夫だよ」
エースは優しい。
そして、全部を包み込んでくれるような腕、無邪気な笑顔、聞くと安心する低い声。
「あんま無理すんなよ!あんた溜め込むタイプだから」
「はいはい」
あたしがそう返事をするとエースはへらりと笑ってあたしの背中を軽く叩いた。
「エースってさ、雲みたい」
「ん…何でだ?」
「なんか…掴めないなー…って思って」
「ハハッ、…太陽みてぇってのはよく女に言われるけど雲みてぇなんて言ったのはあんただけだ」
前に一度だけエースに彼女が出来た事があった。
その彼女は中学の頃からエースが好きで、いつもエースの傍に居た、あたしとも仲がよかった。
やっとくっついたのかと思ったら、しばらくして別れたと言う話を聞いた。
何でかなって思った、あんなに仲良しで、お似合いだったのに…
「でも、太陽みたいってゆーのもわかるよ」
「へー…」
「エースってさ、どうして彼女作んないの?」
「本気で好きな奴としか…付き合ったって続かねぇだろ?」
「まあ、うん…」
「まだ、そーゆー奴に会ってねぇだけだ」
そう言って笑っているのにエースは悲しげだった。
エースを好きになる女の子達は、彼のこんな顔も知っているのだろうか。
そう思うと何だか胸がきゅんと痛くなった。
「エース、」
「ん?」
「エースも…無理しないでね。いつでも話聞くから」
「…おう」
エースの全部を知りたいって、全部知った上で、この人を好きでいたいって、思った。
優しい君の領域で
その優しさが気まぐれだって構わない、いつか君の本当の優しさに触れられるなら。
20100220
title:たとえば僕が
あおのリアルな心境。