捧げ物

□Life love to him
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「お前にしちゃどじっちまったんじゃねーか?」



目を細めて、少年に笑いかける。



「・・・うるさい!」


自分の出した声が頭に響いたのか、不快そうに眉を寄せた。




バンエルティア号の一室。


少年は、チベット自治区のクエストから、青年に抱えられて帰ってきた。

熱が高いらしく、荒く息を継ぎながらーー青年の胸に大人しく凭れ掛かっていた。


船の中でも、力のある少年が、一体何故か。

暫く、船内ではチベット自治区に強力な魔物がいると噂にさえなった。




・・・のだが。




「ルーティを助けようとして、あいつのブリザードをまともに受けるなんざ、ある意味リオンらしいけどな。」

先のクエストは、青年ーーユーリと、リオン、ルーティの3名で向かっていた。


依頼品の採取も終え、さあ帰船しようというとき。

詠唱中のルーティを背後から魔物が襲った。

気がついていないルーティを突き飛ばし、魔物に止めを刺す。

同時に、ルーティの詠唱も終了。

ワンテンポ遅れてブリザードが起こり、リオンを襲った。

少なからず体力が落ちていたことと重なり、そのまま高熱に倒れたーー




「謝りもしなかった!あの女、完治したら覚えていろ・・・ッ」

痛む頭を押さえる。

熱のせいで、勝手に涙目になってしまう。



「素直に謝れねえだけだって。この夕飯、お前にだけ人参とピーマン避けて作ってたの、あいつなんだぜ?」

夕飯は、食べやすいようにと薄めに作ったホワイトシチュー。
確かに、具材にその2つは見受けられない。


いつもなら、そんなものも食べられないのかとこれ見よがしに山盛りにするところ。
彼女の、せめてもの罪滅ぼしだろう。



「〜ー・・・それぐらい当然だ。」



ふん、とそっぽを向く。

かわいいやつ、と良いかけてやめた。




「へーへー。さ、食えよ。食わせてやっから。」

湯気のたつそれを一掬い。
数回冷ましてからリオンの口元に寄せた。


「な・・・自分で食べる。」


心なしか、頬の赤みが増す。

潤んだ瞳で、彼をみた。





「病人は大人しく看病されてろよ。それとも、口移しで食わせてやろうか?」


ユーリは得意の笑みを浮かべ、リオンの髪を撫でる。


「要らん!」

ーー瞬間、また頭痛がしたらしい。



抵抗するだけ無駄と悟り、大人しくユーリに夕飯を運ばせた。




「・・・もういい。」


3分の2ほどのシチューを胃に納めた。


「りょーかい、お姫様。」

「(誰がだ。)」



シチューの残りは、ユーリが平らげる。

当然のように、同じスプーンで。





風邪が移る、と言ってみたがーー

貰ってやろうか、と返されて黙った。







些細なことなのだ。
同じ食器で食べる、なんて。

そんなことが、どうしても照れ臭い。

それ以上のことだって、数えきれないほどしているのに。







「大分熱下がったんじゃねえか?」


額、そして耳と顎の付け根に、優しく触れた。

自分より低いその手が心地よく、目を細める。


「ん。ほら、薬。」



実は苦手な粉薬。

アニーとルカの医療組から処方されたものだから、効くのは間違いないのだが。






「・・・」

「お姫様は薬も駄目なのか?」

さっきより意地の悪い笑い。
答えずに、薬を奪ってみたが、飲む事が出来ない。


「一人で飲めたらデザートが出てくるかもな?」



昨日作ったプリンとか。




態とらしい発言に、心のなかで悪態をつきながら、何とか敵を体内に流し込んだ。

けほ、けほと咳き込むと、大きな手のひらが背を軽く擦る。



「良くできました。」




予め盛り付けられたプリン・アラモード。
器用なものだと、感嘆の溜め息をつく。



「はい、あーん。」


またか。
リオンの咎めるような視線は、効果を得ない。




恥を忍んで口を開ける。
訪れる滑らかな舌触りと、冷たく喉を通る感覚。

味覚が落ちている今でも、十分に美味しい逸品だ。




「誰にでも取り柄はあるものだな。」




ーー誉めているつもりかよ、と笑う。

熱のせいだと言い聞かせたが、その笑顔に心臓が早くなった。





「・・・誰かさんの取り柄は素直じゃねえことかもな。」


もう一匙掬い、食べさせながら言う。

複雑な顔をするリオンに、ユーリは笑みを深めた。


こちらは一人で、綺麗に食べ終える。









「オレが寝込んだら看病してくれるか?」


ベッドに横たわったリオンの髪をすく。



「やってやらんでもない。・・・治らないとあのプリンが食べられなくなるからな。」


「そっちかよ。」



ホントに素直じゃねえのな。



聞こえる程度の囁きに、リオンの笑みがこぼれた。


ーーそれも一瞬のことで、急に真面目な表情になる。



「・・・ロイド達と魔物討伐に行くつもりだったんだろう?その・・・手間をかけさせて悪かったな。」


ぼそぼそと、照れの混じった声色。

薬のお陰で引いていた頬の赤みが、濃くなった。




「・・・熱上がったんじゃねーの?」

茶化すように、自分の額と、リオンの額に手を当てる。

「〜っ!人が折角・・・「冗談だよ。」」


リオンに向かい、優しく微笑んだ。
髪を分けた額に、キスをする。



「あれだ。病めるときも、健やかなるときも〜って、な。」


続き知らねえけど。


口説き文句にしきらないところが、ユーリらしい。




「・・・」










病めるときも



健やかなるときも





汝、彼を愛することを誓いますか。
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