長編 ROMAN

□緋色の風車
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緋色の風車





何が起こったのか。


よくわからなかった。





泣き叫ぶ声と、肉の焼ける臭い。


シスターに後押しされ、身を寄せながら走った。





「こっちだ!早くこいよ!」

「待て!僕は、逃げるなんて・・・!」


ぱしん。
引き寄せた手を払われる。



「アンジュやフィリアの気持ちを無駄にする気か!?」



気持ち、なんて。
不確かで、自らも信じていない。



けれど、リオンが戻っては、逃げた意味がないのだ。



「ルーク、お前ーー」
ルークがはじめて思いやる言葉を口にした。




驚いた顔のリオンが、そのまま宙に浮かぶ。



「ーーよお、お二人さん。」



戦闘狂の、ユーリ・ローウェル。
いくつもの村を襲った過激派の首領だった。



「リオン!!」


ユーリを睨み、もがく。
が、逞しい腕が身動きと口元を塞いでいた。



ユーリは口角をあげて笑う。



「赤髪のお坊っちゃん。」



ユーリの空いている方の手が、ルークへと伸びた。





『ーー屑がーー!!』

「人も息絶えれば物になるんだぜ。」


『お前さえ、お前さえ居なければ、アイツは死ななかった・・・!!』


「なあ、戦場の空気はどうだ?」






「『死ねばよかったのに!』?」






「あぁああ!!!」



ルークは、頭を抱えて叫んだ。
ユーリの笑みが深まる。





記憶にない声が響き、痛みを生む。
迫り来る掌。
心ない言葉。





「俺のせいじゃない、俺は、俺はーー!!」



俺が悪いんじゃない。



『生まれなければよかった!!』





生んでくれなんて頼まなかった!






「俺は悪くねえーー!!」

現実への言葉なのか。
記憶への言葉なのか。


ルークはそう叫ぶと、ユーリとリオンに背を向け、風のように走った。

ユーリは心底愉快そうに笑い、リオンを抱く手を強める。





「はっ・・・薄情な相棒だな、マドモアゼル?」



戦場に相応しくない甘い囁き。
リオンは悲痛な表情で、ルークの去った後を見た。




「(ルークーー・・・)」



願わくは、せめて。

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