小説

□絶痛絶苦
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(何て言えばいいんだ…?)

あのまま終わってしまった昨日の練習試合に、どうしたものかと頭を抱えたくなる衝動に駆られた。
だからと言ってあの時の今吉サンみたいにがりがりと自分の頭を掻き毟ろうとは思わないけど。

(取り敢えず、謝った方がいいか……)

しかしどうやって謝ればいいのやら。
悶々としながらオレは普段今吉サンがいるらしい図書館へ足を踏み入れた。
図書館なんて珍しいどころか初めてかもしれない。
その静かさが落ち着かなくてさっさと一回りしてあたりを見回す。
案の定、今吉サンは机に向かって受験勉強をしていた。

(…って、霧崎の悪童も一緒かよ)

一気に謝りづらい状況になった。
そういや同じ中学出身って言ってたっけか。
まだ連絡とか取りあってるんだな。

「お」

こちらに気付いた今吉サンが小さな声で、呟く。
そのままひらひらと手を振ってきたので無視できなくなる。
それにつられて悪童こと花宮真もこちらを振り向いた。
花宮はげっ、という表情を隠しもしなかった。腹立つ。

「あの、今吉サン」
「昨日振りやな、自分も勉強か?そないには見えんけどええ心がけやん?」
「いや、昨日のことで…その謝っとこうかと」
「……?なんに?」
「え…」
「試合での我儘っぷりかいな?いつもの事やん」
「いや…まあ……」

おかしな奴やなあ、と不思議そうに首を傾げた今吉サンにどうしたらいいのか分からなくなった。
この人、覚えてないのか?
そんな様子を見てか、花宮は一つ嫌そうに溜息を吐いた。

「俺、もう帰りますから」
「ん?もうええんか?受験勉強がてら教えてくれ言うたのに」
「さっきまでので充分です。…卿も削がれましたしね」
「さよか」

ほなな、と去る者拒まずな態度の今吉サンに小さく会釈して花宮は思い切り俺の腕を引っ張り強引に出口へ向かった。

「え、ちょ」
「うるせぇ」

図書館内だから騒ぐわけにもいかずオレも外へと引き摺られる。
結局なんやったん?みたいな顔で今吉サンはオレたちを見送っていた。
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