小説

□絶痛絶苦
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「なんだよ、いきなり。オレは今吉サンに用があって来たんだよ!」
「うん知ってる。そんなことが分かんねーほどオレは莫迦じゃねえからな」

ふはっ、と歪めた唇から赤い舌をのぞかせる。
何でこいつは人の神経を逆なでするのがこんなに上手いのか。
下手したら殴りそうだ。

「おいおい、この程度で目くじら立ててたらあの人と付き合っていけねーぞ?」
「うっせーよ」
「つーか、お前あの人になにした訳」

厭味ったらしく笑ってたくせに、いきなり真顔というか迫真に迫った表情で詰問してくる。

「…寧ろされたのはオレの方だろ。引っ搔かれるわ、さらに覚えてないとかある意味オレの方がダメージ受けまくりだよったく」
「…お前、さ」
「あ?」

何となく、オレのやったことを察したのか花宮は眉根を寄せてオレを睨んできた。

「あの人がなんで人に嫌がらせすんのが得意なのか、考えたことあるか」
「は、」
「あの人に人の嫌がることをさせたら右に出る奴はいねぇと、オレは思ってる。…唯」

こいつは、何を言ってるんだろう。

「人の嫌がることをされたのは…」

された…確か受動態だったな、とふと中学時代の授業を思い出した。

「まあ、右には言わずもがな、左にもしばらくいないだろ」

酷くがんがんと鳴り響いたその声に、うるさいと頭の中でどなってみる。
彼が人に嫌がることが出来るのは。
彼が人に嫌がることをされていたからだなんて。
知りたくなかった。

でも、昨日の様子を見る限り納得はできる。
あれはどう見たってPTSDの類だ。

唯、一つだけ言わせてもらうとするなら。
昨日のことを忘れてしまっている今吉サンに、なんて謝ればいいんだよ。
あんなにきょとんとした態度で対応されるのに。
なんて謝れば。
それだけは花宮の奴に文句を言いたくて、でも口から出たのはちっ、という舌打ちだけだった。

だって、よぉ。
形となって残されているのは今吉サンにつけられた傷だけなんだぜ。
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