オリジナルストーリー:短編:

□嫌→夏好→夏
1ページ/2ページ


―夏。

セミがうるさい時期。
なんでも求愛行動だとか。
あぁミンミンうるさい、
盛るなら余所でやってくれ

って去年の夏ずっと愚痴ってたっけ。

夏は嫌いだ。

でも…

「な、な!純也(ジュンヤ)」

ふと自分の名を呼ばれる。

振り向くと、視界いっぱいに
暑苦しい恋人の顔―

「…なに、んっ……」

二人の距離はゼロ。


あぁ、熱い。
全身、溶けそう。

「コレ、あげるっ」

ふと唇が離れたかと思うと、
恋人の朱葉(アケハ)はビリリ、と何かを破り、
四角い水色を口に含み―


―シャリッ、クチュ…

「っん、…」

俺の口に、
砕けたそれを舌で押し入れた。


あぁ。
冷たい。気持ちいい。

「…純也、うまい?」

クスッ、と無邪気にわらう朱葉に
若干の色めきをおぼえて、
戸惑う。

「…ちべたい。」

「はは、いいじゃない。
夏なんだから。」

「……ん。」

やっぱり夏は暑い。

朱葉に出会う前の夏よりは

確実に暑くなってる。

セミも俺の鼓動も
うるさい。

でも、

「…嫌いじゃない」

求愛の声が甘く響いた午後3時。



―END―
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ