オリジナルストーリー:短編:

□悪魔さん
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ザワザワと人の声で溢れる
駅のホームには不釣り合いな
少年がいた。


真っ黒なレザー生地で
胸元がほぼはだけている
マントを着用し、上半身は
それ以外身につけず、
ウェストから
股関節ちょい下までしか
布面積のない真っ黒なパンツ
(+細長い黒い尻尾)
のみを身に纏った、
なんともコスプレじみた
格好の少年が、

駅のホームの地べたに
座り込んでいた。


「う゛ーー、腹減ったぁぁ…、
くっそ、師匠の嘘つき…!
何が
『人間界のトウキョウは
絶好の餌場』
だよー!
誰一人
見向きもしないじゃんかー、
もう!!」

一人ゴチる少年、

リリム
は正真正銘の悪魔である。


悪魔、と一括りにいっても
種類は様々で、
リリムは所謂『夢魔』、
インキュバスである。

彼らの餌は人間の生気。
性交やキスなどで
人間から吸収する。…のだが、
リリムは半人前で、
まだ一度も自分の力だけで
食事したことはなかったのだ。

なのにリリムは、
自分のことを
半人前呼ばわりする友達に

自分の力を見せてやろう、

と意気込んで
遠い人間界へと
飛んできたのだ。


…そして付いた先が
この駅のホーム。


飛んでくる間にエネルギーを
使い果たした様だ。

「いつも師匠から貰ってた
からなぁぁ、どうしよー
腹へって動けねー…」

「オイ、そこのボウズ!!」

「…へ?オレ?」

唐突に声をかけられ、
振り返るリリム。
そこには駅員が立っていた。

なにやらご立腹の様子である。

「そうだ、こんなところに
座り込んで居られると
お客様に迷惑だ。
さっさと家に帰って、
着替えてきな。
目立ってるから。」

「…家に帰れないもん。」

「は?」

「お腹すいた……」
ぐぅ、と鳴ったお腹を
さする少年。


「はぁぁ?…まじかよ…
…あー、オイ、ボウズ。
確かあっちの駅員室に
おにぎり置いてあったから、
食うか?」


「……お、にぎり…?何それ。」


「は!?
おにぎり知らねぇとか、
お前どこのボンボンだよ!
あー、もう、
いいから来い!!」

「、え!?」

ヒョイ、スッ―

「うわ、わわわ!!」

駅員は呆れた様子で
ため息をはいたかと思うと、
リリムを横抱きにして
歩きはじめた。


リリムは内心、
ものすごくパニックに
なっていた。

(な、何でオレ、
抱き上げられてんの!?)

リリムは焦っていた。
早く帰らないと師匠に
怒られるから。

リリムは、
これからどうするかを
駅員の腕の中で
試行錯誤を繰り返していた。

(う゛ーん、どうするか…
…はっ!!オイ、待てよ…。

……そぅだ!!
コイツから生気を
もらえばいいじゃん!!)


「…着いた。おい、降ろすぞ。」

「ぇ、う、うん!!」
(よっしゃぁぁ、
見てろ、すぐに吸って
帰ってやる!!)

意気込んでいるリリムは、
駅員室の扉の先に広がる光景に、また内心ガッツポーズだった。

「うわ!!人、いっぱい…」

「ん?あぁ、そりゃな。
今休憩中の駅員全員が
ここに集まるんだ。
シャワー室なんてのも
あるんだぜ、スゲーだろ。」

リリムは
腹が減っていることも忘れて、
感無量だった。

もちろん、
感動していたのは
シャワー室があることなんかじゃない。餌の数に、だ。

「……すごい……」
「そうだろ?
あ。あぁ、ほら。おにぎり。」

ポイッとぞんざいに
投げられたおにぎりを
しっかりと受け止める。


(なんか…変なかんじ。
目に見える食事、かぁ。)

不安そうにおにぎりを
凝視するリリムに、
(リリムの格好のせいかも
しれないが)
若い者から40代あたりの
駅員たちまで、ぞろぞろと
集まってきた。


「おいおいボウズ、
変わった格好してんなぁ」
「本当、これ本物?」

アハハ、と笑いながら、
若い駅員が
リリムの尻尾(もちろん本物)
を遠慮なくガッシ、と掴んだ。

―そこがリリムの

一番の性感帯であることも
知らずに。
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