It's impossible!!√O

□You Go Mad !
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『あー↑うー↓あー→あー↓♪あー↑うー↓あー→あー↑♪』←チャイム風
「そのだらしない口を閉じて静かにしてみたらどうなのかな」
大蛇丸(の部下)に拉致されてから一体何週間経ったんだろう。
とりあえず子供のように落ち着きがない様子でうろつきながら隈無く部屋を見つめたり見張りの様子を見たりする。
相も変わらず抜かり無い。
『カブトくんちっすちわーっす』
「……(しらー」
『だらしない口っつったってどうしようもないんだよなあ。口を閉じてもハミングして怒られちゃうしー、静かになんてできないしー!ほらほら構えよお!』
がっしゃんがっしゃんと力任せに牢を押したり引いてみたりする。
「うるさい」
『やだやだやだあ!カブトの兄ちゃんが遊んでくれないよお!大蛇丸お母ちゃあん!』
「お前いい加減にしろよ」
『そう言いながら口笑ってるのが見えるよ!』
「笑ってないよ」
『あっはっはっは!ようやくこっち向いたあ!ねえねえ遊ぼ?遊ぼおよお!』
「お前それ本気でやってる?」
『え、本気で殺っていいわけ?』
「!?今……」
声の調子は変わらないのに少し死ねと思ったらこれか。まだ動けそうにないな。
『どうしたの、そんな顔して。わたしのようなか弱い一般人、すぐにでも殺せるくせに……何かにひどく怯えてるみたいだけど。ダイジョウブ?』
ニヤニヤと床にへばりつきながら減らず口を叩く。
「ちっ……!」
『あぁ、そっか!そっかそうだったね、殺せないんだっけねえ!なんせわたしはあなたの大事な大事な大蛇丸様のー?大事な大事な器だからあ!あっはっはっは!愉快だなあ!笑ってやるわ、ふはははははあっ!』
ゴロゴロゴロ、と高速で床をころがりながら笑う。この光景だいぶシュールに見えるだろうな。くっ、笑えてきた……!
シュール大好き、シュールストレーミングは知らん。多分無理だろうから嫌いって言っとく。
その時。
ガチャ
「!大蛇丸様!」
『ふはははははあっ!』
「……何してるのあの子」
「どうやら僕を嗤っているようです」
『字が違うぞお!ちゃんと10行前(スマホだと)読み直せ馬w鹿wめwがw』
「……カブト、今日はこの子もお遊びに混ぜてあげる」
「!大蛇丸様!大丈夫なんですか……?」
「危なくなったら助けてあげなさい。私は嫌」
『ならやめときゃいいのに』
「そうです!こればかり奴に同感です!」
『こればかりとは何だ、こればかりとはあ!よもやケンカか?わたしにケンカを売っておるのか貴様あ!』
「仕事なんだからしっかりこなしてちょうだいね」
「くっ……わかりました……」
『しゃ、ち、く!しゃ、ち、く!大変だねえ!精々汗水垂らして働くがいい!そしてこきつかわれる絶望をほんの一時楽しむがよい!ふはははははっ!』
「(何で勝ち誇ってるんだろ……)」
ガチャン、きゅっきゅっ
『なんだ、これ』
「目隠しよ」
『それぐらいわかるわヴォケが。手錠つきの目隠しってどんな破廉恥プレイだって訊いてんだよクソが、それぐらい察しろよ脳ミソおがくずかこら』
「あなたやっぱり口塞いだ方が良かったわね」
『口が利けなくなったら目に見える悪口書いてやるよ』
「もうやだこの子」
『オレが諦めるのを諦めろォ!』
「じゃあこの子をよろしく。合図があったら目隠しと手錠を外しなさい」
「わかりました」
「頼みます」
「暴れちゃダメよ」
『……暴れないでいてほしいならちゃんとお願いしろ。何、土下座しろとは言わん。どうせ見えないしな。口だけでいいんだからさっさと言え』
「ふっ……わかってるじゃない。よろしくね」
『……』
まあここで下手に暴れて今までよりもゴツい手錠にされたりされても嫌だしな。
目が見えんなら耳と鼻を使えばいいだけだな。
幸いにも口は空いてるし、足だって大丈夫。
ここまで考えて先程の大蛇丸の言葉を思い出した。
≪「合図があったら目隠しと手錠を外しなさい」≫
大蛇丸の立場になって考えてもみればこの言葉、少しいつもと違うのである。
そういう時は
「合図があるまで目隠しと手錠を外さないように」
だ。
後者は恐怖を感じていることがわかる。例えばかくれんぼのまだだよ、と言っている時のような、鬼ごっこで追いかけられている時のような(ただし鬼ごっこの前にリアルとつく方)。
前者はうすら楽しみにしていると感じる。そして大蛇丸は前者を使った。
恐らく先程のお遊びという奴だろう。
とりあえずろくなことではあるまい。
状況が状況なら"怪物"を使う必要もあるだろう。
手錠を引っ張られる。
『……どこに行く?何をする?』
「大人しくしとけ。お前は大蛇丸様のお気に入りだから悪いようにはされんだろう」
男の声は静かに言うとまたこっちだ、と引っ張る。
目隠しが外される。手錠が外れた。
遠い背後で扉の閉まった音と真っ暗だった視界が真っ白になった。
小さな闘技場のようなその高い塀に囲まれた場所に立たされたわたしの前にはいかにもわたしと闘うような二人の男。目ぇイッてんぞおい。
『……!!』
思わず歯噛みし一点を睨み付ける。
大蛇丸はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて見下ろしている。
「さあ、貴女の力を見せてちょうだい?」
『お前なんぞの玩具ではないし見世物でもない。それにわたしは闘ったりなんてできないぞ』
「でもその人達は貴女を襲うわ。殺されたいの?」
言い終わる前に目の前で両手を体の前に垂れさせていた男二人がこちらにかけてくる。
降り下ろされた拳を避けるがすぐにもう一人の男の足が迫っていた。
『っ……!』
ヤバい、こいつら、ほんとに殺しにかかってきてる。
なんとか避けきれてはいるが拳や蹴りの入れ方からして明らかに一般人のそれではない。
こんな重い一撃、まともに食らったらわたしなんて実戦経験なんか全然ないから弾こうにも上手く受け流せないだろう。恐らく持ってかれる。
後ずさるように地面を蹴ると思いの外距離が取れた。
男の一人が印を結ぶと霧が立ち込めた。
「チャクラの量もそれなりに育ってるみたいね。くくっ、良かったわ」
大蛇丸は先程よりは声量を落としているが何を言っているのか聞こえる。
これもチャクラのおかげってことなんだろうか。感覚が鋭くなるってのはいいな。
さて、しかしこれでは本当に埒が開かない。
このままでは殺されかねない。
わざわざ殺される必要が今あるわけでは無いし、これは"怪物"を使うべきだろう。
目を閉じ、口を閉じ、唇だけ少し横に開き深く息を吐くと目を開く。
獣が如く、人としての理をお構いなしに暴れるか。
……初めてだから怖いけど……
……でも、そうか。こいつら、殺していいんだ。だって、そうだよね。こいつらを殺さないと、わたしは何もできない。わたしは今、誰の子でもなく、誰の姉でもなく、誰の上司でも、部下でもない。
誰にも、迷惑はかからない。
ーーー沈む。深海のように真っ暗な闇に向かって、心が引きずり込まれていく感覚。
心が沈むと自然と感覚はさらに冷たく、鋭く冴え渡った。
そうだ、だって、今ここでこいつらが死ななかったら、それはきっと被害者が増える。
今までだって被害者が居たんだとも考えられる。
それなら、わたしはその人達の悔しさや恨みをかき集めてでも、殺さなきゃ。そうじゃなきゃ、わたしはきっと、"人間らしくない"。
ビリッと自分の周りの空気が一瞬揺らぐ。
ここで"怪物"について少しだけ説明しておこう。
わたしは普段この理性で"怪物"を抑え、"狂人"で過ごしている。
"狂人"の時点でわかる通り、わたしは既にまともとはかけ離れてはいるけれど、それでも何とか。
そして、この"怪物"は実に醜い。
例えば"蓮コラ"って知ってるだろうか。あのキモい奴だ。知らない人はググらない方がいいだろう。
理性的な"狂人"である元のわたしはそれを見ると、というか想像するだけで何だか気色悪く思う。
だが今は"怪物"である。
"怪物"の"私"は……潰したくなる。
孔から見えているものを押して全て取りたい。
奥に小さなそれが見えたら?
もちろん、上の孔だらけの面を掻き破ってそれを取り出したい。
……こういう人が傍に居たら、流石にキツい。自分でもキツい。
だから、いつもは抑えているが今はそんなの関係ない。
すぐに左前に人の気配を感じて殴り飛ばす。
「かはっ……!」
「!」
後ろのもう一人に肘鉄を食らわすと武器を飛ばしてそのまま床に叩きつける。
霧が晴れた。
『……なんて無茶させるんだ』
「あら……やっぱり強いんじゃない」
『体が勝手に動いた』
「あらそう。流石はうちは一族ね。血が薄れても確かに流れている証拠よ」
『……。』
ギロ、と大蛇丸を睨み付けるが大蛇丸は嗤う。
「さあ、これでとどめを刺しなさい?」
カラン、と乾いた音を立てて目の前に1つのナイフが落ちた。
『仮にもお前の部下だろう。彼らはまだ人間だ』
「あら、その人達別に部下じゃないわ」
『は?』
「色んな村や小さな里の罪人達をこうして飼ってるのよ」
『……ほんととんだクズだなてめえ……』
「ふふ、早くしないとまた殺されかけちゃうわよ?」
がし、と掴まれた足首。
『うっ……!』
押し倒された自分の体、男が膝を掴んで上体を起こして血を吐きながらナイフを振り上げる。
「しね……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
ーーー何をしている。さっさと殺せ。
『……ぁ……!』
わたしは心の内で悲鳴を上げた。
"怪物"は、目の前の男の手首を掴みナイフを引き抜くと、男の首に順手に構えたナイフで一線引く。
ぴっ、と赤が飛び散る。
『(うっ)』
思わず顔を顰める。不規則に撒き散らされる鉄錆の臭いが、信じられない物を見るように開かれた男の濁った目が、涎を出しながら何かを求めるように舌を突き出して開く口に見える黄色い歯が、気持ち悪い。
腰を浮かせて馬乗りの男を退かしてナイフを持ったまま立ち上がる。
『は、……はッ……!』
熱い。胸を叩く鼓動が恐ろしく熱い。
そのくせ指先は冷えてるのが奇妙な感覚で居心地が悪い。
ーーー浅いな、もっと深く、力を込めないと。
“怪物”は首を押さえる男を見つめて冷静に呟く。
『(待っ)』
男の頭を掴み、地面に引き倒すともう一度刃が男の首に突き立てられる。今度は深々と、柄まで刺さった。
こちらに伸ばされていた男の両手から力が抜けて、ぐるりと目が天を仰ぐ。
「あぁぁぁぁあッッッ!!!」
気絶から立ち直ったらしい、もう一人の男が喚声を上げて殴りかかろうとこちらに駆けてくるのが見えた。
『黙れ』
“私”が呟く。ちがう、こんなの、わたしじゃ、ない。
ーーーいいさ、それならそれで。
“怪物”は、來は、ふっと頬を緩めて男の心臓を的確に貫いた。
ーーーもうこれで、“私”達は、來は漏れなく、人殺しだ。
びしゃ、と吐き出された鉄の匂いがわたしを覆う。
その瞬間、色々なものが冷えた。冷めたとも言える。
あぁ、あっけない。
なんて、あっけないんだろう。
『(ーーー……だから、パニックホラーとか、嫌いなんだよ……)』
そう、人はもっと強い。強いはずだ、ちょっとやそっとじゃ傷つかないし、死にはしない。
こんな、簡単に……死んだり、なんて。
『……もっと、苦しみながら死んだりしないの……?』
ーーーやっぱり、お前の方がよっぽど、"怪物"だろうがよ。
違う、わたしは怪物じゃない……!
『(ちが、う……違う……!わたしは……わたしは、人間だ……人間である、はずなんだ……わたしは、"怪物"なんかじゃない……!)』
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