It's impossible!!√O
□watch a village
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「えぇぇぇぇ!?」
『あれ、先輩には話してませんでしたっけ』
晩ご飯中にトビに≪最初は避けることしかできなかった≫とからかわれたのでわたしが一般人( )であることを言ったらこんな反応が返ってきた。
「だとしたら最後のあれとか何だったンスか!?」
『いや、わたしにもよくわかんないですけど。先輩が守ってくれたから……次はわたしが守りたいって思って……。本当にそれだけですよ?これで貸しが返せたかって訊かれると微妙なとこですけど』
「あ、ありがとッス……そういえば僕、これからは正式メンバーじゃないッスけどここで暮らすんでツーマンセル、一緒だと思います!よろしくッス!(來か……使えるかもしれないな……オレの為にそこまで考えてくれてたのか……案外いい奴……か?)」
世の中は何でも損得勘定だろう。
……情けは人の為ならず、っていうし。
そう、決して、善意100%って訳じゃない。わたしは聖人にはなれっこないのだから。
『いえ、こちらこそお願いします』
「じゃあおやすみなさいッス!」
『あ……』
なんて声をかければ止まってくれるかわからなくなってしまって思わず腕を掴んだ。
「!どうしました?」
『あ……。』
ど、どうしよう。
そんな、どう言えばいい。
トビは首を傾げるととりあえず距離を縮めた。
「?」
わたしが小さいからか、わざわざしゃがみ仮面の穴をこちらに向けて言葉を待っているトビの、目が見えそうで視線を逸らしながら脳を働かせる。
口をあ、とかう、とか情けなく数回開閉すると覚悟を決めて切り出した。
『……ははっ、あの。えっと……今日、は、ほんと、に、……そ、の……すみま、せん……でし、た』
めっちゃ途切れ途切れやん。でも、言えた。
「え?……もう……だーいじょーぶですって!そんなに気にするようには見えないのになあ……」
『……怪我のお手当て、してもいいですか』
「へっ!?」
『こう、でも……しないと……わたしは……』
昼間のあの光景が戻ってきて俯いてしまう。
「!だ、だから……そう、あれ変わり身の術だったって言ったじゃないッスか!來さんも見たでしょ?僕怪我なんてしてないですって!」
『……そんなこと、言ったって……』
「大丈夫、來さんが気にすることなんかありません。ね?」
『……嘘だ』
ぼそりと呟く。
「え(なんか、……今、また雰囲気が……)」
『あ、えっと……コー、ト、破れてたの、確認しましたから。そんな嘘、やめて下さい……何かで防いだかもしれませんけど、それならそれで、せめて、直させて下さい。ダメ、ですか……?』
「あ……(あれ、この笑顔……苦しそう……?)……じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
『(良かった)はい!頑張りますね』
「じゃあ僕暇なんで見てます」
『!?』
びっくりして振り返るとリビングに裁縫道具ありますよ、と教えてくれた。
『え、いや……そうじゃなくて……』
「えー?ダメッスか?」
『いや別に……何となく恥ずかしいなあ、って』
「いいじゃないッスか!僕は來さんと、これから一緒にいる時間が一番長いんすよ?これぐらいいいでしょー?」
『な、何かよくわかんない理屈ですけど……つまらなくてもいいなら……』
「やったあ!」
そんなに喜ぶことかなあ……。
チクチク
『……』
「……」
チクチク
『……』
「……真剣ッスねえ」
チクチク
『……』
「なーんか、こういうの良くないかもしれませんけど……僕、今朝初めて会った時……來さんっていつ見ても笑ってるなあ、って思ったんすよね。だからこんなに真剣な顔するなんて全然思い付かなかったなあ」
チクチク
『……』
「しかもこんなにちっちゃい女の子だったなんて……何歳なんすか?」
チクチク
無言で針を進める來の表情は人形のように押し固まっている。
「あ、あれ?……もしかして怒っちゃった?」
『……ん?』
「え、ちょ……僕の話聞いてました!?僕けっこう失礼なこと言いましたよ!?」
『あー、何かへらへら笑ってるから真剣な顔が想像できなかったとか……そういう?』
「聞いてるなら返事してくれてもいいじゃないですか!」
『ん……あぁ、わたし集中してると返事できないというか……』
はあ、やだなあ。
眠い時はいつも能天気な狂人でいられなくなる。
『これで塞がりましたか?』
「おー!すごいみっちりと……けっこう得意ッスか?」
『苦手ですよー』
「またまたそんなー」
何だこいつ。
苦手って言ってんだから苦手ってことでいいだろが。
『はい、じゃあこれで貸し借りなしですからね!』
「あ、そういう……」
『えー?何か期待したんですか?』
「しちゃいますよそりゃ!女の子にあんなに必死にお願いされちゃ何かあったのかな?って」
『だって何か先輩けっこう貸し借りに煩そうですからねー』
にやっ、と笑うとそれもそっかあ、と笑った。
「よーし、じゃあまた明日からも頑張りますか!」
『おー!』
「じゃあ今度こそ僕はこれで。おやすみなさい」
『おやすみなさい』