It's impossible!!√A

□軌跡
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『あー、美味しかった』
「良かったな」
オビトは相変わらず無表情ながらもほわわ、と喜色を浮かべる來の頭を撫でる。
『……人を幼子扱いするな。三十路手前だぞ。幼くなんか、ないんだからな』
「わかっているが、可愛くてな……手が勝手に。それに、幼く見えると言っても10代そこらだ、安心しろ」
『安心できる要素が見当たらないのだが……』
むう……と唇を尖らせる來はすぐにいつもの威圧感を与えるような顔に戻った。
『……私は、一度ならず、あなたの為に……この世界を、何度も、壊した。そんな私が、あなたのずっと望んだ、彼女のような天使には見える訳がないだろう?私はむしろ、鬼だ悪魔だと恐れられるモノだぞ?』
「そうだな。お前はリンとは全く違う……だが、今のオレが好きなのはお前だ。わかっているか?來は、來が思っている以上に……オレのことを変えてるんだからな?」
ふにゅ、と両手で來の頬を包む。
『……ならば、責任を取らねばな?』
「ふふ、安心しろ。オレも元よりそのつもりだ」
小さく笑いながらまた頭を撫でるオビトの手の感触を愛おしそうに目を閉じて受け入れる。
「鬼、な……こんな可愛いのにな」
『他人になどこんな風に甘えるものか。戦闘時の私しか知らない人間からすれば全くの別物だろう?』
「……まあな」
小柄で、仕草や声も可愛いのに、普段の冷たい表情や声音は威圧感しか放たない。
圧倒的な戦闘力で数を物ともせず打ちのめす敵にとっては絶望的な、味方にとっては頼もしいあの背中。
大戦の最中に見た、紅い瞳で静かに敵を見据える、片手に雷槍を握る凛々しく美しい横顔を思い出す。
その姿はまさに神話から抜け出した英雄のように、一騎当千の力を示すには相応しくーーー。
「(……まあ、威圧感たっぷりなんだが……)」
オビトはフッと顔を上げる。
「すみません」
『……?』
声をかけられた來が振り返る。
「あ、あの、他里から来たのですが道に迷ってしまって……」
ここに行きたいんです、と來に申し訳無さそうに伝えるカップルに來は小さく
『あぁ……』
と声を漏らした。
『その店なら先程この通りを歩いていたら見かけた。このまま行けば着くだろう』
「そうですか……!良かった。ありがとうございます!」
一礼をして手を繋ぎながら歩き去ったカップルに來は軽く手を振ってからオビトの視線に気がついて顔を上げる。
『……なんだ、その生温かい目は』
「いや、お前よく人に道訊かれるよな、と思ってな」
オビトの言葉に小さく鼻を鳴らして顔を顰める。
『……無害そうに見えるのだろうな。この通り体も小さくてひ弱そうで、何かされそうになったとしても自分で対処可能そうだと』
「きっと、お前の優しさが滲み出てるんだろうな」
驚いたように目を見開いてから來は吹き出した。
『ふ、ふはははははっ……!そうか……そうか、君も、彼と同じことを言うのだな……優しい、だと?この、私がか?くく、それはそれは……なんとも愉快で、滑稽なことだな……!!』
「?彼と同じこと?」
誰と比べた?と問うオビトに來が小さく笑いながら呟く。
『……私の中の、どこかの世界にいた、夫がな。道を訊かれるのはそれだけ優しさが伝わってくるから大丈夫だと思われるからだと、言っていたことがあるらしくてな。記憶が少し、思い起こされただけのことだ』
「……ふーん」
『ん?……なんだ、嫉妬したのか?』
ニヤニヤと笑いながらオビトの頬を突く來の手を掴みながら顔を背ける。
「別に、してねえ」
『ほう、それはまた、意外なこともあるのだな?ついてっきり普段から一人であくせくと嫉妬に忙しいと思っていたんだが?』
「わかってんならやめろ」
『……ふふ、してないのではなかったのか?』
「してないに決まっているだろう」
意地の悪い笑みを浮かべる來の両頬を片手でむにゅ、と軽く掴む。
『むぐっ!?』
「……今の來には、オレしか映らないし、オレしか知らないんだからな。オレの知らない來を知っていようが構わん。そいつの知らない、來をオレだけが知っているのだからな」
そして、これからも見せてくれるのだろう?オレは知っているぞ?と続けるオビトに來は押し黙った。
「なら、嫉妬なぞしてやる必要もない……オレが独り占めしてやる……ゆっくり、じっくり、丁寧に……余す所なく、綺麗に、平らげてやろう」
はあ……っ♡と熱い吐息を漏らしながらヤンデレでお馴染みなハイライトのない万華鏡写輪眼で來を見つめる。
「何処にも逃がしてやるものか……怯えて必死に逃げ惑うのも可愛いが……諦めてオレの手元に堕ちてこい」
オビトの言葉に小さく、小馬鹿にしたように嗤うと來は頬を掴んでいたオビトの手をベリッと引き剥がした。
『……私がその程度で堕ちるとでも?ふふ、それは随分と舐められたものだな。堕ちるのはオビトの方だ。……覚悟しておくといい。このまま、二度と私以外見られないようにしてやろう』
悪どい笑顔で会話する二人。内容がラスボス同士のそれにしか聞こえない。
強気な來の返答に満足そうにクスクスと笑うと手を繋ぎ直して歩き出したオビトは
「來は可愛いのにやっぱりラスボスだな……覚悟しておく」
『ふん、せいぜい私を誉める言葉を用意していろ。……私もあなたのことを、……愛している』
「み°っ」
『何か言ったか……?』
「突然そんなこと言うな!キャパオーバーするだろう!!」
『わ、悪かった……だが、いつも言ってくれるから……さっきああ言った以上、好きの安売りにならん程度には言わねばならないと、思ったのだが』
む?と困ったように唸りながら隣を歩く來にオビトは
「(待ってくれ、この來可愛いがすぎる……!!なんでこんなに可愛いんだ!これで無自覚なのが恐ろしい……オレがちゃんと守ってやらなきゃ……!!)」
『というか』
「ん?」
『私一人の時ではなく、君も一緒に問われていただろう?君が一緒でも訊けると思われたのだから、君も例外なく優しさが滲み出ていたのではないか?』
今度はオビトが目を丸くして來を見下ろした。
「オレが?……やめろ、そんなもの、柄じゃない」
『そうか?お年寄りに優しくできるのだから優しいだろう?』
「いつの話だそれ……」
『たしかこの前は歩道を横断していたご老人の斜め後ろをゆっくり歩いて足を滑らせてもすぐに手助けできるようにしていたな?』
「っ」
オビトはじわじわと体温を上げた。
「別、に……そんなのじゃ……」
『悪いが、……君のことが好きだから。見ていた。君の一挙手一投足にドキドキさせられるのも癪だからな』
オビトが來と繋いでいない方の黒いグローブに覆われた右手に顔を埋めながら思わず呻いたのをいたずらっぽく笑いながら來が見上げる。
『なんだ?……君だって私のことを見てくれているのだろう?なら、私だって君と同じようにやらないと君の求める愛情を等価交換することができないだろう。……まあ、等価交換というのも可笑しな話ではあるが……だから、君のことを、ずっと見ている……嫌なら、逃げても良いのだぞ……?』
思わず待ってくれ、と声を上げたくなった。
「(オレと同じように?てことはオレが何かしてる時だってずっと來が見るのか?あれとかそれとかこれとかしてる時も?)や、やめろ……!そんなに見つめられ続けたら心臓が保たない……!!」
『?そっか、ダメか……それなら別の方法にするとしても……どんなことなら良いのだろうな……』
うぐぅ……と呻きながらオビトは首に巻いていたマフラーを一気に剥がして來に優しく、だが素早く巻きつけた。
『っ、いきなり、何するんだ……!見えないだろう!?』
「うるさい!首寒そうなんだよ、ばか!それ巻いてろ!!」
視界を占める紺色のマフラーを押し下げるのに格闘している來に見えないようにオビトは熱くなった顔を冷ました。
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