It's impossible!!√O

□ I realize that I am falling in love.
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【オビトside】
自嘲気味に乾いた笑みを浮かべた。
オレは何を訊いてるんだ。
これじゃあ宣戦布告にはならない。
馬鹿なことを、と思っていると
『はあ……馬鹿だな』
「へ?」
思わず來を見ると俯いていた顔を上げて実に不服そうに、
『……敢えて言いますね。馬鹿ですか。アホですか。それとも間抜けなんですか。実に馬鹿らしい。あのねえ、先輩。本気でそんなこと思ってるんですか』
ジトッ……とした三白眼にへの字に結ばれた口。
いつもの見慣れたスタンダードな表情+寄せられてシワを作った太めの眉毛という表情なのだが、その目は剣呑な光を帯びている。
何よりも面と向かって馬鹿やアホなどと言われたことなど、いやここまで連続して言われたことなどあまり人と関わっていなかった最近はなく。
「え、ちょ、急にどうしたんスか……?」
困惑気味に言えば大げさに目を回してから見据えられ、
『ちっ、あぁ、もう!聞いてるだけで虫酸が走るな。先輩はさっき、その人が"他の人にも同じように優しい"だとかなんとか言いましたね。誰にでも分け隔てなく優しい人?はっ、そんな奴なんて居るわけないじゃないですか。聖人なんて神話上の生き物など現実世界に存在しえない。まだ世間を知らない子供ならともかく、いい歳した大人の姿でそんな奴がいるとすれば裏でコソコソやるような気違いじみた化物かただの世間知らずな奴ぐらいなものでしょう。そんな奴はいずれ世界に殺されて無惨な結果しか残さない』
「うぐ……」
的を得てはいるが思った以上に口が悪い。
そしてそれはオレのトラウマを抉るからやめてくれ。
『その結果を見て人は多分思うのでしょう。自分が安らかな日々を過ごすためには他者を犠牲にする必要があり、それは幸せを追いかけるための義務であり、けして悪いことではないと。あぁ、滑稽だ。あぁ、実に幸せだ。それがどれだけ空しいことなのか、どれだけ愚かしいことなのかがわからない。わたしはそんな人を見つめるのが大好きです。だからどこまでいっても自分を嫌いにはなれない』
うっそりと笑いながら大きな身振りで口ずさむように言う來に本性の陰鬱さや妖しさを感じるが次の瞬間にはまたムッとした表情に戻って続けた。
『結局のところ、その人が先輩の知らない、先輩の良いところを知ってるからそうやって優しくしてるんでしょ?先輩がその人が周りにその優しさとやらを振りまいてる様子を見たからそんなこと言ったんでしょうけど!……見てない上で思ったんなら先ずもって先輩は考え方がひねくれてるから矯正する必要があるが!』
矯正とは。今までの來とは違う一面に少し引きつつも、その内容に惹かれ耳を傾ける。
「え、えー……?」
『えぇ、確かにわたしは先輩の過去だとか知りませんよ。先輩が、わたしの隣を歩いているけれど、実は見てるものやら世界が違うんじゃないかとか……たまにどうしようもなく、遠い存在に感じることもあります。それは事実なんです。先輩が仮面を被ってるのにもちゃんと、キャラ付け以外の理由があるのだって何となくわかります。どんな理由かなんて知りませんけど!』
今までの関わりたがらない姿勢はどうした、と言いたくなる。
確かにオレとの会話が明らかに他のメンバーよりは多かったことは知っている。
けれど、一人でぼーっとしていることも多くて、任務に出た時やこちらから話しかければ答えたが、忙しなく周りを見回したりしていて、あまり本質には迫れなかった。
オレが始めたことではあるけどここまで食いつくとは思わなかった。
來は腕組みをして見上げていた視線を前に戻しながら話し続ける。
『それに。例えどれだけ間柄が親しくなったって、結局のとこ、どう足掻いても他人です。分かり合おうとしたって全てが全て、分かり合うことなんて絶対にない。他人に価値観押しつけんのと同じでしょう。その人だけの過去と感覚があって、初めてその人ができてるんだから、どれだけ似たり寄ったりの出来事を重ねたってクローンでもない限りはその人とは同じにはなれないし、考え方だとかを変えることはできやしない』
「……!」
『そうかもしれないけど、過去だとかは結局判断するための材料……オプションに過ぎない。過去だけでそういうこと、決めんのは良くないと思います。今を生きているわたし達が見据えるべきは現在と未来。だからそういうの差し引いても、今のわたしにとって、先輩は……ほんと、普通に面白くて、優しくて、……理想的な人だと、思ってます。その人が選ぶかどうかは知らないけど、その人も先輩のそういうところ、知ってるからこその優しさだとわたしは思いますよ』
「……」
後半になるにつれていつものように声が落ち着き、気まずそうに視線を反らしながら言うと來は首の後ろを掻いてから
『……あー……っと、その、屁理屈ごねてすみません。言ってること、しっちゃかめっちゃかでしたね。別に、その、先輩を責めるつもりだとかは、ミジンコもないんですけど。うん、年下の小娘がこんなこと言ったことで気分を害してしまったなら謝ります。別に、その……わたしの個人的な……そう、ただの戯れ言なので聞き流してもらっても別に構いません。慣れてますし。ただ、ちょっと、その……だぁぁ!もう、めんどくさいな!っ……いやー、先輩にもそういう、ネガティブなところあったんですねえ』
「一応、考えてますよ。にしても驚きました」
『?』
「僕のこと、実は好きだったりします?」
『えっ!?な、何でですか?』
意図を汲み取れなかった來がまた見上げてくる。
そういえば話しかけたらちゃんといつもたった一つしかない穴を見つめてくる。
案外根は真面目で、色々な事を考えられる奴なんだろう。
それでいて、恐らくここまで気が付くのは多分、よく他人を見ている証拠。
「ちゃんとした答えだったから、ちょっとびっくりして」
『ありゃ。そんな馬鹿っぽいですか、わたし』
若干棒読みっぽく言って乾いた笑い声を発した來を横目で盗み見る。
先ほどとは違い、いつも通りのぼんやりとしていてふわふわと掴み所のない彼女の大げさなリアクションやら何やらも引っくるめて、きっとオレは……。
何よりも先ほどの來の一端を垣間見た瞬間に確信した。
こいつなら受け入れそうな気がする。
こいつならオレを好きになってくれる。
こいつなら。
そんなよくわからない確信を得ると次に起こるのは支配欲である。
雲のようなこいつを知って、オレの手元に置いておきたい。
オレに振り向いてほしい。
あわよくば、オレだけに見せる表情があってもいいと思う。
「……可愛いなあ」
そう小さく呟いた。
もう隠す気なんて起こらなかった。
來がきょとんとオレを見上げると目が合った。
『……?』
「來さんのことッスよ」
『は、はあ……?』
いまいち言葉の真意を測り兼ねたらしい、困惑したような顔の來の頭を撫でる。
「どうしよっかなあ」
そう愉しげに呟くと笑みが浮かぶ。
やっぱり、オレは來が気に入った。
心から手に入れたいと思った。







何だったんだろ、結局。
可愛い、なんて父親以外の男性に言われたことなど無かったわたしを見てはっきりと発されたその言葉に恥ずかしさやら疑問やらが浮かんではもやもやと沈む。
さすがに訊くのは躊躇われた。
待ち合わせ場所には既にみんな揃っていた。
『すみません、遅れてしまって』
「いやこの時点で集合時間の10分前だし。みんなもついさっき集まったばかりだからな」
『それなら良かったです』
とその時だった。
ずずずっ、と変な音がしてわたしの前の床から緑の物体が現れた。
「あ、ゼツさん」
『え?』
草みたいなものから白黒の人が現れた。
「はろー」
「今ハ夜ダカラ[グッドイブニング]ダ」
あ、この人二人で一人なのか。
ぽかん。
「あれ?見かけない子だね」
「コイツガウチハ一族ノ新入リナンダロウヨ」
「なるほど」
『來と言います、よろしくお願いします』
「よろしくね」
「礼儀モ一通リナッテイルナ」
『ありがとうございます』
「(すげぇ、マジで動じてねぇよあいつ)」
「ところで何の用だ?」
「それがね……」
「エリカガ逃走シタ」
「本当か?」
『……大蛇丸の部下に連れ去られたんじゃないですか?』
「何でだ、うん?」
『幻術はまだ切れないはずなので……一人では逃げることはできないと思うんです。なので他者の介入の可能性があるのではないかと』
「大切な荷物が無い限りはこのまま他のアジトに移りたいところだな」
「とりあえず今から帰って必要最小限のものを持って移動する。終わり次第、全員で捜しに行く。いいな」
「「「「「「あぁ」」」」」
『……っくしん』
なんか、寒い気がする。
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