It's impossible!!√A

□防禦
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夢を見た。
何度も、何度も、繰り返し、オビトを喪う、夢。
悪夢の中に何度も架けた誓いを守ることはできず、私はまた破ってしまう。
ダメだ、そちらに行っては。
『ーーー……!』
なんだ、これ。
声が、出ない。
足も、重しに掛けられているかのように動かない。
必死に前のオビトに手を伸ばす。
『(あ、れ……?)』
伸ばしたはずの、伸ばしているはずの手が見当たらない。
見下ろせば、黒く、ボロボロと崩れ落ちていく、これ、は……?
『(あぁ……そうか……)』
私は無力だ。
何も、変わってなど、いなかった。
私の手はそこに亡かった。
『……ぁ……』
絶望に駈られようやく出た音は意味を成していなかった。
見上げれば前方のオビトが闇に呑まれていた。
『っ……!』
最後に振り返ったオビトの頬を涙が一筋伝ったところでようやく目が覚めた。
『……。』
上半身だけ起き上がろうとして気づいた。
自分は何者かによって拘束されている。
『う、ぅ……?』
長らく眠っていたせいか人の言葉らしくない音が自分の喉から発せられた。
ようやく落ち着いてから周りを見渡す。
薄暗がりに浮かび上がる鉄格子の部屋、自分の体を縛る鎖は手足だけでなく、首や胴にも巻き付いている。
『(オビトが、いな、い)』
それは感じ取れた。
嫌でもそれだけは寒さが肌を刺すように、眩しい光が目を刺すように感じた。
ここはどこだ。
オビトはどこだ。
オビト、私が、護らなきゃ、いけない。
『う"、ん"ぎぃ"ぃ"ぃ"ぃ"い"……!』
來は唸りながら鎖に力を込めた。
耳障りな金属音を立てる鎖に來の体が軋み始め、左腕からは早くも血が滲んでいる。
「ーーー!」
「ーーー!?」
『がっ、あ"ぁぁあ……!』
辛うじて練ったチャクラを使い拘束を振り払うと向かってくる人間を手当たり次第に殴り、蹴り飛ばした。
『んぐ……う、……っ!(……そう、だ……)』
岩壁が剥き出しになった廊下を重い体を引きずり移動する。
明らかに病院などではない。
『(私は、オビトに、幻術で、眠らされていた)』
自分が起きてしまった以上、考えられるのはオビトがそこまでチャクラを回せない状況に陥ったか、あるいは……。
考えたくもない答えに僅かながら残っていた理性が吹き飛んだ。
『がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"っ!!!』







その獣のような咆哮は洞窟内だけでなく里に響き渡った。
災厄の象徴、とも取れるようなその咆哮に人々はさらに足を早めた。
「……!」
オビトは血の気が引いた。
明らかに、正気を失った、あの声は……!
「マダラ!ここは頼む!」
火影岩の上で火遁を使って降り注ぐ隕石を焼き払っていたオビトはマダラの返事も待たず声の聞こえた方へ、來へと向かう為に岩を降りた。
「……結局こうなるのか」
マダラはため息を溢すと須佐乃乎を造り出した。
「あまり、目立ちたくはなかったんだがな……そうも言ってられまい」
須佐乃乎で防ぎながら時間経過を待つマダラ。これぐらい余裕である。






「なんだ、これ……」
オビトは來のいた病院で足を止めた。
院内は炎に包まれていた。
患者を連れて逃げてくる医師に何があったのか訊けば
≪患者を連れ去った輩が暴れ、炎を放った≫
とのこと。
「(來、どこだ……!)」
オビトは街を飛び出すと外れの森から咆哮が聞こえた。
「(來の奴、誰かに連れ去られて反抗してるんだ)」
オビトは來のチャクラを追った。
『くっ、は、ははははははははははははっ!』
狂ったような嗤い声に背筋を冷やしながら血の臭いのする方に向かうと洞窟があり中から咆哮と鎖らしき金属音が聞こえた。
『ヴ、ア"ア"ッ……!』
「この……!」
ガキィン、ガッ!
『がっ……あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"!』
剣を鎖で弾いた來は脇腹を裂いた切っ先に一瞬だけ怯んだが、すぐに牙を剥き敵に襲いかかる。
「ひっ……!?」
「く、くそ!早く買い取り手のとこに……!」
ジャラララララッ
『ヴヴ……ガァァァァァァア!』
迷路のように入り組んだ洞窟を急ぐオビトのところまで響く音を立てて鎖が再び來の体を絡めとる。
「(完全に発狂している……!早く見つけてやらないと……!)」
オビトは唇を噛み締めた。
思えば今までだってそんな兆候はあったのだ。
≪『もういい……皆殺しだ』≫
≪『こうなった以上またいつあいつらが来るかわからないんだぞ!隕石だって落ちた、そんなことを言っている場合じゃない!』≫
そう、それだってもし≪強い責任感≫が転じて≪強迫観念≫になってしまっていたのなら。
ただでさえ一人で背負い込もうとする來ならあり得かねない。
それに、既に前の世界では発狂して自ら死を選んですらいたではないか。
ようやく開けた場所に辿り着いた。
『グ、ウ"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"!!』
「……!?」
異様、としか言えなかった。
野生の獣が如く、傷つきながらも血に染まった拳を振るい、猛り吼えながら敵を叩きのめす來は、悪魔か、鬼としか言えなかった。
返り血を浴びながら何処か嬉々として近くの敵の骨を砕き、内臓を破り、踏みにじり、叩き潰し、噛み砕く、戦い方に誇りはおろか、理性の欠片も見当たらないその様子は明らかにオビトに向けられていたそんなものとは比べ物にならなかった。
「來……!」
静止した來はゆっくりとオビトの方を向いた。
その顔は虚ろで、返り血を全身に浴びていた。
『う"……ぐ……オび、……』
オビトの名を呼びながらも次の瞬間、來の体が大きく傾いた。
「!」
抱き止めたオビトに一瞬、來は沈みかけた意識を覚醒させオビトの右腕に大きく噛みついた。
「っ……!」
オビトは驚いたが抱き留める力を緩めずにいると來は今度こそそのまま意識を手放した。
「……無茶しやがって」
オビトは小さく呟くと來を抱き上げて里へと向かった。
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