It's impossible!!√A

□防禦
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目の前のオビトの紅い瞳は直接私の脳を揺さぶった。
『くっ、んぐぅう……!』
オビトの上に馬乗りになった私は手を押し留めようと歯を食い縛って抗い、何とかオビトの肩から動かさないように留めていた。
オビトはため息をつくと誘導するように自分の手を重ねて首に押しつけた。
『……ぁ……ぃや、いやだ……!やめろ……!』
泣きながら懇願するがオビトは笑いながらもその幻術を解いてはくれない。
私の手に力が入っていく。
『いや、いやだ!や、なんで……!』
≪「敗者のオレをくびり殺せ……オレならお前の首を絞めているからな……お前もそうしろ」≫
ぼぎんっ、という嫌な音が響き私は絶叫した。
オビトの眼が紅から生来の黒へ戻ると同時に手が滑り落ちた。





『オビ、ト……』
「ん……起きたか」
オビトは來の自分の名を呼ぶ声に目を開くと目の前でゆっくりと瞬きをする來の顔を見つめた。
『あ、……うぅ……』
小さく呻きながら浅い呼吸を繰り返し、涙を浮かべる來の頭を撫でると同じように見つめ返す黒と白の瞳が疼いている狂気を抑え込もうとしているのがオビトには判った。
『……手……』
小さく促されるままにもう片方の手を持っていけば來は手を取って、自分の頬に当てた。
『……っ、う、んぐぅっ……!』
涙を目尻に追いやるように目と歯を強く閉じる。
狂気を抑えつけようと熱い息を小刻みに吐きながら唸るその姿に名前を呼びながら頬を撫でれば來は泣き出しそうにオビトを見つめた。
オビトの手を包む両手は炎のように柔らかく熱いのに、頬はすっかり冷えきっていた。
「來」
オビトの声に來は小さく目を開いた。
來の熱い吐息が薄くオビトの手にかかった。
「大丈夫……大丈夫だからな」
『ぐ、うぅ……!』
小さく呟かれた言葉にまたきゅっと目を瞑ると唸りながら來は少し顔を動かしてオビトの手に顔を埋めるようにして小指側の側部に歯を立てた。
「……まったく……」
またか、と半ば呆れたように言いながら、しかし愛しげに見つめてオビトは來を見つめる。
あぐあぐと口を動かして傷口が開き出てきた血を來はこく、こく、と小さく喉を鳴らしながら嚥下する。
「……旨いのか?」
『あぁ……』
低く、唸るように言った來の瞳を何とはなしに覗き込めばそこには黒ではなく、紅が据わっていた。
「えっ」
『……また、かじってしまったか』
「いやお前今」
『どうかしたか』
自分の方に向いた紅い瞳をオビトは見つめ返した。
來はゆっくりと起き上がる。
「(今、來……完全に正気だったはずなのに……)」
『……任務に復帰する』
「……オレと一緒ならいいが」
『ならそれでいい。……むしろそうでなければ誰が私を止められる』
「プロポーズか?」
『こんなカッコ悪いプロポーズがあってたまるか……だが、そうだな……今の私にはオビトがいないと、まともに動けない以上……私を動かすのなら、オビトも動かないといけないが……』
「オレは構わん」
『なら、いいんだ』
「で、オレの血は旨いんだな?」
『……別に、他の人間の血なんて舐めようとは思わん』
「(てことは)オレの血は舐めたいと思ったわけだ」
『……。』
揺れた紅い瞳に分かりやすい、と小さく笑った。
『……甘い』
「そうか?」
『確かに、好きだ……だが、これじゃ、私じゃなくなるみたいだな……正気に戻る手段として、オビトの血を舐める、なんて変な話だが』
來はまた塞がり始めた傷口をそっと撫でた。
『痛いだろうに……私に合わせてくれなくてもいいんだぞ』
「オレが好きでやっていることだ。気にするな」
『……君は、本当に……優しいな』
小さく笑った來の頬を両手を使って包んだ。
「こんなに優しくするのは、お前だからだ……他の奴らなら、ここまでしない」
『……そうか。……なら』
來はオビトの顔に自分の顔を近づけた。
「!」
『私も、君以外……こんな風に、自分から間合いを詰めたりはしない……もっとも、今までの君を見ていると、それには気づかなかったらしいが』
低く呟きながら意地悪く細められた紅い瞳にオビトは変な声を出しそうだった。
「いっ……いきなり、色気を出すな!」
『はあ……?』
「反則だろう……!犯すぞ!?」
『君は何を言っているんだ』
狂人をして引かせるオビト、すごい。
「というのは(全然)嘘で(はない)」
『の割に妙に鼻息が荒いな』
「興奮したものは仕方あるまい」
『おまっ……!……はあ、君はよほど欲求不満ということか』
「おい、人を変態みたく言うな」
『どの口で言うんだ……』
來は紅から黒に左目を戻すとゆる、と窓越しに昇った満月を見上げた。
白い月光が優しく照らしているのを來は少し目を細めて見つめる。
右の白い瞳は満月のように明るいが、一方の左の黒い瞳は夜闇よりも暗い。
『……オビト』
「ん?」
『……私は、君の……君の役に、立てているか』
「何だ急に……役に立たなくていい。傍にいるだけでいい」
『……やらねばならない……』
「どうした?」
『私が、しないと……』
虚ろにそう呟くと來の目に力が戻った。
「來……?」
『……』
來は月から目を離すとオビトを見た。
それは、唐突だった。
ちゅっ
『……』
「ら、……?」
來はオビトの唇を奪った。
「(え、え、何だ、この、状況)」
オビトは目の前の依然変わらない、虚ろな白と黒から眼を離すことはできない。
オビトは來の肩を抑えて止めるなど頭からすっぽ抜けるぐらいには動揺していたが來はお構いなしに角度を変えながらオビトの唇に自分のそれを落としている。
舌を入れられることのない、本当に啄むような小さなキスを、何度も。
「(え、うそ、オレ、來に、キス、されてる)」
自分からしている訳じゃないので何が何だかわからず、來を見つめながらグルグルと同じ事実を頭のなかで反芻させていると窓を激しく叩かれる音でようやく來は離れた。
『……悪かったな』
困ったように笑いながら來はオビトから離れると窓の向こうに張りつく女を指さした。
『これが、君のストーカーだな?』
それは以前、オビトが來へのプレゼント選びに付き合ってもらった女だった。
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