It's impossible!!√A

□喧嘩
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『ったく、何だと言うんだ……!何っ、なん、だよ!あー、むかつく、腹立つ!』
「(來さん荒れてるなあ)」
昨日、結局オビトと話さなかった來は茶店のバイトに行くために鬼鮫の作った朝ご飯を食べていた。
卵かけご飯を口に箸で流し込む來の眉間には深い皺が刻まれている。
『ご馳走さまでした』
「はい。……大丈夫ですか?」
『何が』
「こ、怖いです」
『む、……すまん……』
來はばつの悪そうな顔をすると食器を片付けにかかった。
『……オビトが他の女と関わろうが私には関係のない話だ』
「(すごく動揺しすぎて心の声出ちゃってますけど……)」
『そうだ、まったく、関係が、ない。……関係、ない、んだ……ぐずっ
「……!?」
鬼鮫は驚いて手を止めた。
來が、泣いている。
「(ちょっ……オビトさぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!?)」
來は鼻をすすると俯いて早足で部屋に戻った。
「……。」
あ、あの來さんが泣いていた……?
あの來さんが?
普段
≪『もういい……皆殺しだ。その方が平等かつ話が早い』≫
とか、黒ゼツに対しては
≪『己を憎んだことなど、無いのなら……その幸福をありがたく想いながら、そのまやかしに想いを馳せながら絶望して死ね』≫
とか言っちゃう悪魔か鬼みたいな、あの來さんが!?
「……これは相当……」
鬼鮫は小さく確信した。
大波乱の前兆である……と……。






『ありがとうございました』
「ご馳走さん」
「來ちゃん」
『あ、はい。何でしょう?』
ピークのおやつ時が過ぎた頃、店主のおばあちゃんに呼び止められた。
「そろそろ休憩にしようかね。甘い物でもお食べ」
『あ、ありがとうございます……』
こと、と置かれた日本茶と小さな饅頭を來の視線は通り過ぎ、床に落ちた。
『……。』
「來ちゃん」
『はい』
「人はねぇ、強がりすぎないように出来てるのよ。強い人でも、おんなじ」
『……。』
「わたしはね、貴女と同じぐらい強かった人を知っているわ。でもね、その人の強がりに気づけなかった」
『……。』
「誰にも理解されず、一人で死んでいった、あの人に來ちゃんはそっくりだと思うの。今になって、あの人が淋しがりだったことを思い出してしまう。今となっては、……後悔ばかりよ」
『……私は、……きっとその人のように強くなどありません』
「あら、どうして?」
『私は……一人になっても何かに立ち向かえるとは思えないので。まだ弱い、弱すぎる』
「……あの人もそんなことを言っていたわ」
ため息混じりにそう呟いたおばあさんは空を仰いだ。
「もうわたしはこんなおばあちゃんだし、あまり目も良くないからちゃんと見えないけれど、それでも來ちゃんが……今泣きそうになっているのはわかるの」
『泣き、そうに……?』
「ええ」
『……私は、泣いてなど……』
「わたしにはね」
おばあさんは來の方を向いた。
「來ちゃんが……本当に強い人だとわかるわ。力も、精神も。でもね。泣きたい時や、弱音を吐いたりしちゃいたい時も、たまには必要よ?」
『……ありがとう、ございます』
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