It's impossible!!√A

□喧嘩
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『お先に失礼します』
「ありがとうね」
來は茶店を後にする。
外に出ればセミの鳴き声が何重にも重なって聞こえる。
近くの山に沈んだ夕日の面影が残るばかりで東からは夕闇が差し迫っている。
『(……アジトに帰ってオビトに会いたくないな)』
來は鬼鮫にメールを送り携帯を仕舞うと商店街の方へ向かった。





「ねー、次はここ行きたいなー」
「いや、オレは……」
「そんなこと言っちゃって。何だかんだで今日一日付き合ってくれたじゃない」
「暇だったからな」
「えー酷いわ!もう、オビトの意地悪!」
『、』
思わず來は近くの店先に入ると声のした方を見た。
オビトが女の人と歩いている。
『(……まあ、女遊びに行ってくると言っていたからな。それはそうだ)』
來の思考とは裏腹に放電がパチパチと音を立て始めた。
「……?」
オビトは來のチャクラに気が付きそちらを向くが來は神夜赭で移動した後だった。
「(今來が居たような……)」
「どうかした?」
「(……気のせいか)いや、何でもない」
「そっか。じゃ、行きましょ!」
「おい、引っ張るな!」






『……。』
來はバーの中の一つのソファーに背を預けるとそのまま膝を抱え込んだ。
『(もう、何もわからない……どす黒い感情しか見えないぞ……)』
來は俯いた。
「もー、どうしたの?」
『……わからん……』
握り締めた両の拳が小さく震える上に二粒、三粒と涙が落ちては弾けた。
どうしよう。
どうしよう、どうしよう。
「ちょ、あたし達がお話聞くから!」
「よしよし」
『うー……ぐずっ、も、……』
こんなにも溢れてくるこの想いは一体どうすればいい。
吐き出したって楽になれる訳じゃない。
そんなことは知ってても自分の気持ちを整理したくて、これ以上心配させたくなくて。
『……もう、いっそ、またオビトに殺されればいいのか』
「ぶっ!?」
「ちょ、ダメ!ダメよ!?」
『いや、もう二度とは戻れなくなるのが嫌だ。怖すぎるからそんなことしないけど』
「こ、怖いわ」
『……そんなにとち狂ったことを一瞬でも考えてしまったのは事実だ。こんな感情なんてものは苦しいだけだから、だから、向き合わないようにしてきたのに』
「……來ちゃん……」
「よっぽど辛かったんでしょうね……」
「でも、安心したわあ」
『?』
「來ちゃん、そういうこと言わないから。意外と情熱的ね」
『……もはや狂気の域だろう』
「それだけ大好きってことじゃないの」
「オビトさんが羨ましいわよ」
「何かほら、大戦の時も頑張ったんでしょ?」
「何度繰り返してでも守ろうとするなんてほんとカッコいいじゃない」
『体質が変わったからかもしれんが……だからこそ、私はもう死んでるんじゃないかと、たまに思う』
「大丈夫、生きてる!」
「そんなに大好きなのに言えない理由とかやっぱりあるの?」
「迷惑かけたくないとか?」
『……まあ、そんなところだ。オビトの意志を優先させるべきで、私の意志を押しつけるべきではない。理屈ではわかっているのに、……今こうして、気持ちが溢れてくるんだ』
「聞いてるこっちが居たたまれなくなるぐらい好きだって云うのはわかったわ……」
『私はもう二度とオビトを傷つけないと約束した……二度とは傷つけない……二度と、その契約を破ることがあってはならない』
「律儀すぎでしょ」
『オビトに想いを告げて傷つけてしまうぐらいなら、私は死んでしまう方がいいし、何なら激昂したオビトにそのまま殺される方を選ぶ。……もう痛みすら感じやしないから前よりも嘘つきになったかもしれないんだ。だからこそ……』
「……恋愛なのか何なのかあたしにはわかんないわ」
「うん、ちょっと思った」
『前提として、私はオビトの弟子であり、部下であり、従者である。オビトは私の師匠であり、上司であり、主人である。……私の持て余している感情はそれらを崩壊させうる要素も持っているだろ』
「あー……確かに、そうね」
『しかもだ。まだ良心と理性でかろうじて押し留めているものの……』
「なに?本気で殺されに行くとか無しよ!?」
『そんなんじゃない!……ほら、……その……オビトの隣にいる人間殺したりとか、造作もないし……まあ悪意あるやつなら喜んで殺すし悪意無くてもどっかから罪状引っ張り出して擦り付ければいいが……オビトが本当にその人を好きだったなら、私は自ら契約を破ることになってしまう』
「うん、なるほどね。途中すっごく怖いこと言ってたけど」
「大体そのオビトさんは來ちゃんのことどう思ってるのよ?」
『好きだ好きだとは言ってくれるがそれは従者に対するそれだろう?本心はわからない』
「「「(((それが本心だと思うけど)))」」」
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