It's impossible!!√A

□殷雷
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『……。』
「來」
オビトが机に向かっていた來に声をかけると振り向いた。
『どうした?』
「いや……そんなにかじりついていたら疲れるだろうと思ってな。コーヒーを入れてきた」
『あぁ……もうこんな時間か。ありがたくいただこう』
オビトは來の分のコーヒーカップを置くと隣の席に座った。まだ熱いコーヒーを少し口に含む。
『……うん……おいしい』
「だろう」
『……まさか君の入れたコーヒーで一息つけるような……こんな穏やかな日が来るとはな。……実に……感慨深いものがある』
「來」
オビトはそっと頭を撫でた。
「もうそんなに気負うことはないぞ。お前の守りたかったものは十分守られた」
『……そうだな』
「今度は……オレに來を守らせてくれ」
『……そうだな』
「……聞いてるか?」
今の何気にプロポーズみたいだったなとか思いながらオビトが見ると來はビンゴブックに目を通していた。
『……。』
「……來」
『ん?』
「かまってくれないとキスするぞ」
カタ、と來はテーブルにコーヒーカップを置くと立ち上がって座ったままのオビトに顔を傾けるようにして唇を重ねた。
「!?」
何も無かったかのように席についてカップで手を温めている來はオビトの目があたふたと泳いでるのに気がついた。
『……ダメだったか?』
「ダメじゃないが!……唐突だったから、な」
小さく笑うと來は机の上を整頓しだした。
『君はよく他のメンバーの前でも容易く触れるよう言ってくれるが……それはいけない。私は君と2人きりだからこそ触れたいんだ』
そっぽを向く來の耳は後ろ姿でも十分わかるくらいに赤い。
來はオビトの視線に気づくと不機嫌そうな声音で呟いた。
『……なんだ』
「いや……可愛いなと」
『やめろ。……その言葉は、慣れない』
「なら慣れさせてやる」
『……こうなると意地でもそうするよな……』
「当たり前だろう。オレはお前の……恋人、なのだから」
『自分で言って照れるくらいなら言うな……言葉でなくとも態度でわかる。私も言葉で言うのは苦手だ。嘘っぽいしな。態度で示した方がよほど手っ取り早く、信憑性が高いというものだ』
「変に現実的だよなお前は……」
オビトは小さく言いながら來を抱きしめた。
『貴方がそうしたんだぞ』
「……。」
オビトは來を見つめた。
口に含んだコーヒーは相変わらず何の味もしないのは來も一緒なのだろうか。
《『お前が人を殺める必要はない』》
研修中に真に話しかけていたのを偶然にも耳にしてしまった。
《「……それでも俺は……」
『下手に殺しすぎるな。……私のいた世界と違っていようが、同じ世界であったのだとしても……お前が戦場に散るのは嫌だ。……二度と、見たくはない』
「……世界は違うが状況は同じ、だったんだな。あぁ、納得がいった……
悪いが、姉さん。俺は既に元の世界でも、この世界でも人を殺めている。姉さんが思うよりは残虐だ。あの頃にはもう戻れない」
『……ならば、少しでも楽になるように先に戦場に立った者として教えておいてやる。……目の前の敵は決して人間ではない。思い、思われるような者はない。そして……
その奪った命で自分が救われていることを、誰かを救っていることを決して忘れるな。やるべきこと、任務は同じだ。我々は護るべき者を護る。あくまで秩序を護りつつ、向かってくる敵は殺す。それだけのことだ』》
「……お前たち姉弟は殺し合いの場にいたのか?平和な世界だと言っていたがそうだとは思えない」
『……。』
來は視線を落とすとコーヒーカップを下ろす。
『……前にも話したが私には以前の記憶がほぼない。……だが一番覚えている世界の話を正直にすると』
コーヒーの黒い液面に揺れる自分の顔を睨みながら來は続けた。
『……私達姉弟は、戦争を生きた。そして、死んだんだ……おそらくな』
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