It's impossible!!√A

□殷雷
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「戦争……」
オビトの脳裏には朝焼けの光を受けた赭を風に翻した來が過った。
戦場を幾度となく共に駆け巡った來が大戦直後に消滅する際の言葉を思い出す。
《『護りたい者を護り切って戦場に散ることができる……なんて贅沢な死に様だ。浮かれてしまうな』》
思わず口を引き結んだ。
『見慣れないかもしれないが』
べ、と來は舌を出した。
「……これは……文字、か?」
來の舌には細かい文字が数行浮いていた。
『言っておくが刺青ではないぞ。……おそらくはドッグタグだ。文字化けを起こしているし、反転しているから認識は不可能だがな』
ドッグタグ、と聞いて犬の識別票を思い起こしたオビトはさらに首を傾げる。何故そんなものが?
『2枚のうち、1枚は戦死者の報告のために集められる。もう1枚は……戦死者の口に含ませる』
オビトは目を思わず見開いた。その言い方は、その考察は、まるで。
『もちろんあくまで可能性の果てに見た幻想なのかもしれないがな。……その世界では真は軍曹、私は伍長の立場だった。あいつの方が軍人としては優秀だったからな……力もなければ圧倒するようなものもない。そこら辺にいるごくごく普通の伍長にすぎない。……私よりも優秀だった夫も前線に向かった。私はいつも、その後ろにいたんだ』
「……待て、夫が……いたのか」
『あぁ。そんな世界もあった……今ここにいる私はきっとここにいる可能性がある“わたし”を融け合わせたような不安定なものなんだろう。彼の顔がどんなものだったか、どんな人間だったかを憶えてはいない。……だが確かに“わたし”の感情を覚えてはいるんだ。彼の親に合わせる顔が無かった。最期まで共に闘い、看取ると……約束したのに。残ったのは肉片だけだった……真もだ。父にも母にも言われた……
《「わたし達を助けないで、他の人を助けにいくのか」》
とね。残念ながら後悔はしていない。私はできるだけ多くの命を生かし……そして、多くの命を奪わねばならなかった。その使命感こそが私を生かすだけのものになってくれた』
來は目を瞑った。
砲弾の降り注ぐ音、激痛に喚く声、敵兵を一人でも殺そうと自らに手榴弾をくくりつけて突撃を試みる者の涙。
『(あぁ……あの時の空も)』
來は心に刻まれた戦場の空を仰ぐ。
僅かに見上げた今に落ちてきそうな鉛色に淀んだ重たい雲から空を映した灰色の滴が止め処なく落ちてきては鉄帽を伝って頬を濡らした。
『……誰一人として護れはしなかったんだ』
來は過去から目を覚ますと目の前のオビトを静かに見つめた。
『だからこそ私は護れる人間を護る……例え数が少なくとも、護れたことに大きな意味があるんだ。私にはな』
オビトの髪をくしゃりと撫でると來はいたずらっぽく笑った。
『護らせてくれて、ありがとう。これからも……君の隣にいよう。構わないか』
「オレだって……オレだって護る。お前に護られてばかりいられるか」
『……あぁ……君も十分に強いからな……今度こそ、君と共に。生きられたなら、どれだけ幸せかな』
來はオビトの頬を撫でて愛おしさを隠すことなく小さく笑った。
「(ほ……
ほわぁぁぁあっ!?可愛いすぎる……!
愛おしすぎて糸になったわ!(?)えっなにこれ尊っ!?天然記念物にしようかそうだなそれがいいむしろそうしよう)」
オビトは無言で顔を赤くした。
「……こんなこと他の奴にやるなよ」
『?する訳がないだろう……?私は君が思う以上に懐く相手は限っているぞ?この距離に長い時間近づけるのは君ぐらいなものだ』
オビトは両手に顔を埋めると天井を仰いだ。
「(ーーーデレデレだ。顔に出ていないがこの來、オレに対する信頼いやそれどころか愛がカンストしていないか?さすがは愛の一族、無表情(ポーカーフェイス)でこの言葉の破壊力、凄まじいものがある)」
『さっきからお前は何をしているんだ』
來からすれば不可解な行動を続けるオビトに思わずお前呼びが炸裂するもオビトはまだ愛情を噛みしめていることに夢中で気づいていない。
『……なんか変なことしたか?』
「むしろもっとやってくれ」
『このままでは任務がうまくいかないだろう……いいか、私は忍ではあるがそれ以前に軍人だ。徹底しておくがまず優先すべきは任務の遂行、その次に命だ。……これは変えられんから覚えておけ』
「……そんなに任務が大事か」
悲しげに曇らせた顔を見つめた。何故カカシといい、自分の周りには任務優先なバカ真面目ばかりいるんだ。
『あぁ……一人でも、任務は達成させないと。護れるものも護れなければ軍人になった意味がないだろう』
「……ならオレがお前を守ろう。オレの大切な者だから」
『君が望むのなら、私が拒む必要はない……だが君に危険が迫るのなら、私は護られることはやめるからな。それは忘れてくれるなよ。君と一緒だ』
ほら、約束。
そう言いながら差し出した來の小指にオビトは小指を絡めた。
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