It's impossible!!√A

□放浪
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目が覚めた。窓の外はもう少しで日が出るらしく、少しずつ白み始めていた。
上体を起こして両手を盛大に伸ばしながらくあ、と大きく口を開けてあくびをする。
頭を掻きむしりながら隣を見る。
「すー……すー……」
『(……珍しいな)』
見下ろすとそこには穏やかな顔で眠るオビトの姿があった。
常ならば勝手に自分の布団に入り込んで目が覚めると片肘を立ててニヤニヤとイケメンスマイルを向けるオビトと目が合い起き抜けに睨みつける(低血圧なので機嫌極悪)までが毎朝の光景なのでオビトの寝顔を見るのはなんだかんだ言って初めて、と言っても過言ではない。
柔らかい夜空色の髪。形の整った眉。いつも自分を見つめてくれる大きな黒い瞳を隠してしまっている瞼。筋の通った鼻。少しかさついた唇。太くて逞しい首。幅の広い肩。大きくて何度も立ち上がる気力をくれた背中。いつも抱きしめてくれた時に押しつけてくる堅くもどこか柔らかくて温かい胸。軽々と自分を抱き上げる腕。重ねれば明らかに一関節分違う手……。
『……、……。』
想いを馳せながら撫でていく。
長いまつ毛が影を落とし、目鼻立ちの整った精悍な顔立ちの男が口をほんの少しだけ開いて小さな寝息をつく光景を愛らしく思って自然と口角が上がる。
短く切られた前髪にそっと触れ額をあらわにすると軽く口付ける。
ちゅ……
『(……起きない、よな)』
見下ろすこと約三秒。すよすよと眠り続けるオビトに安堵の息を漏らす。
『(しかし、よく眠っているな。……こんなに触れているのだぞ……?)』
泣きたくなるほどの幸せを噛み締めて頬を撫でる。
「ん……くすぐったいぞ……」
小さく笑いながらオビトの瞼が薄く開かれる。髪と同じ、夜空色の双眸が來を見上げる。
チリ、と瞼裏に焼きついた何人ものオビトの死に際が來を焼く。
『(ーーーあぁ……それでも、私は、……ようやく、あなたを護りきれたのだな……)おはよう……オビト』
カーテンの隙間から差し込みだした朝日が淡い笑みを浮かべる來を照らす。
キラキラと朝日に照らされた來はまるで終戦後の一度消滅したあの朝のような儚さに一瞬、言葉を忘れた。
「……來……」
オビトは頬に触れる來の手に頬を擦り寄せて手のひらに軽くキスをした。
「……はよ」
『意外と朝、弱いのか?』
「……ん……」
再び目を瞑り、むにゅむにゅ言いながら來にぼんやりと触れる。
『……いつもは寝顔見せてくれないから、なんか、……可愛いな、やはり……』
「可愛いって……言うな……」
來の足を緩く撫でる。
『(甘えてんのかな……)』
「……せっかく……來と二人だから……なんか……安心して……いつもできないんだからいいだろ……」
『……もう少しだけだぞ……まったく』
小さく笑いながらオビトの頭を優しく撫でる。
『……30分ぐらいなら、寝かしてやる。……休め』
「……ん」



ー30分後ー
『……オビト』
ぺちぺち、と來はオビトの頬を叩く。
「……んうー……」
『……。そろそろ着替えないと朝飯食べれないぞ』
「……食べる……でも眠たい……」
まだ夢現なオビトの首に目がいく。
『……(むずっ』
「……んー……」
『(自制が、効くうちに)早く、起きてくれ……』
「そう、言われても、な……」
『っ……』
ぐあ、と來は口を開くとオビトの首に
がぶっ!!
「っ!?!?」
『ん……起きたか』
「おま、今何やった!?」
鏡を見たオビトの喉には小さな歯形がついていた。
ジリジリと痛む噛み跡には少しだけ血が滲んでいる。
『……悪い……つい……首を、噛んでしまった』
「あーぁ……こんな綺麗についちまって……マフラーするからいいけど」
『……起きないのが悪いんだろ』
「オレだってこんなちゃんとつけたりしなかったのに……なんだ、ムラムラしたのか?」
『……』
バツが悪そうに頬を膨らませて視線を逸らす來の隣に戻ってきたオビトが座る。
「(犬……)」
ぺしょ……と折れた耳と尻尾の幻影が見え始めたオビトは首を振る。寝ぼけてるんだな。
「噛んじゃダメだろ」
『う……す、すまない……』
「なんで噛んだんだ」
『だ、だって……起きないし……かまってくれないし……つまんないし……それに』
「それに、何だ」
『……怒らないか?』
「怒らん」
『……、無防備だったから……思わず……』
「お前は犬か??」
『す、すまん……言い逃れができん……』
「要するにこのオレを仕留めようとしていたと」
『……(´・ω・`)』
「やだ可愛い」
思わず大蛇丸口調になりながら來を見つめるが來は視線を合わせようとしない。
「……ちょっと口開けてみろ」
『……キス、しないならな』
「しない」
恐る恐る、口を開いた來の歯列を覗き込む。
『?……??』
「……やっぱりお前の八重歯、かなり尖ってるな」
顎ちっせえからかな……と呟きながら口を閉じさせる。
『……そんなに気にはならないが』
「噛まれるこっちは痛え」
『す、すまない……だが、……咬みたくなる……』
「口さみしいのか?……犬用のガムでも買うか……?」
『彼女に犬用のガム買おうとするとかそれでも彼氏なのかお前??せめて人間扱いしてくれないか?』
「馬鹿、それならずっとキスしてやろうか?って言うのを抑えた結果だ」
『いやそれもそれで怖いな』
「真面目な話していいか」
『突然だな。いいぞ』
「オレは朝起きてすぐにキスしたいしベッドから起き上がってもキスしたい、昼間だってふと何気なくキスしたいし、夜寝る前もキスしたい、平均すると一日におよそ204回はキスしたいと思うんだ」
『どっから出てきたその具体的な数字』
「1時間に!というか!なんなら!五分おきぐらいに!!キスしたい!!!」
『待て、食事時どころか風呂も用便時すらもか?』
ギョッと目を剥いて言う來にオビトがバカ、と応える。
「さすがにそこまで変態ではないぞ」
『さすがにそうだよな。……要するに?』
「片時たりとも!離れたくない!!」
『私もだが?』
「は?可愛いすぎか??」
『こちらのセリフだが?』
撫でても良いのだぞ、いいや撫でろ、と來はグリグリとオビトの肩に頭を押し付ける。
「……お前もしかして浮かれてるのか?」
『なんだ、悪いのか?……オビトが珍しく寝坊したのでな、非常に……なんというか、寝覚は悪くなかったが、その、……寂しかったんだ。撫でてくれないと、また、噛んでしまうぞ』
童顔には合うが、あの理性の鬼のような精神を持つ來にはあどけない表情で呟くのを見るとオビトは一瞬おいてから頬を弛ませる。
「……なんだ?寂しかったのか?」
『だから、そう言っているだろう』
「ずいぶんと素直になったな……可愛い……」
なでなで
『……♪』
「……実はお前けっこう甘えん坊なんだな」
『あのな、前に言ったかもしれんが、こんなことを許すのはオビトだけだぞ。……誰の目もないから、甘えてしまいたくなってしまっただけだ』
「もっと素直に甘えてくれても構わんのにな……」
『不満ならばやめるが』
「やめるな、別に不満とかそういうのじゃないから。……いや、なかなかに素直になれない來も愛おしいがオレと二人だけだから甘えん坊になるのも愛おしいな」
『……いまいち君に上手く転がされている気がする……が、まあいい……許してやる』
「そりゃどうも」
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