It's impossible!!√A

□放浪
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『やはり、距離はあるんだな』
木の葉の里を出て森を歩きながら呟かれた言葉に來を見る。
『今まで神夜赭ばかり使っていたからなかなか気づかなかったが……やはり、長閑でいいな』
「あぁ……ずいぶんと平穏になったものだな」
オビトは十数年、色々な里の裏を見てきた。もちろんそれは表立ってではないが、それは使えそうな者や事情を伺い、利用するためだった。
貧困に喘ぐ者。のうのうと私腹を肥やす者。裕福な誰かを陥れようとする老人。殺害を企てる男。まだ幼い子を抱き施しを乞う女。何も知らずに無邪気にはしゃぐ子供がそう遠からず自分のように絶望するのだろうなと思いながら見ていた。
「……まったく、本当に平穏になったものだな」
傍らを歩く愛しい人を見つめてふと笑みが溢れる。文字通り、世界を一変させた。
英雄というにはあまりにも冷淡で、感情の起伏の少なすぎる人。
だが悪と呼ぶにはあまりにも優しすぎる。
自らの絶望に幾度となく挫折して、それでも乗り越えてここまで辿り着いた意志の塊。
強情で、身勝手で、自身を鼓舞し、同時に躊躇いなく自身を見捨ててでも自分を護ろうとした人。
「……お前のおかげだな」
『突然何の話だ』
全ての隠れ里を救ったわけではない。
それでも、來によって救われた命が、未来が。確かにここには在るのだ。
「オレが存分に甘やかしてやるからな」
『やめろ。甘えたい時に甘やかしてくれればそれでいい』
「釣れない奴だな」
『可愛げがなくて結構だ』
ザアッ、と吹いた風に揺れた枝から葉が落ちる。
青い空に舞い上がる深緑をぼんやりと來の黒い左目が追いかける。
風に揺れた長い前髪の隙間に覗く黒い眼帯が鈍く、光を閉ざしていた。
『……平穏、か。たしかに、そうかもな』
風に掻き消されそうな大きさで吐いた言葉には不安の色が滲んでいた。
「なにか心配なことでもあるのか」
『……少し、な』
「言ってみろ」
『……。』
黒い瞳がゆったりと泳ぐ。
静寂を待っていると來が歩みを止めないままに話し出した。
『……月の主のことだ』
「カカシから聞いたアレか?」
ヒナタが攫われ、ナルト達が助けに月に向かった後、オビトはカカシから事の顛末を知らされていた。
「もうあんな事は起こらんぞ?」
『いや……そんな事は知っている』
「なら何がお前を不安にしている?」
『私の記憶が正しければ……あれは本来なら大戦の2年後に起こる話だった』
「……そうなのか?」
『……この先……きっと、私の知らない話が出てくる。……オビトだけでなく、他の人間も、知らないところで消されるのかもしれないと思うと、少しばかり、……いや、仕方のないこと、なんだが』
「……そうか」
『オビトは、私が何度も……世界を、やり直したことは、充分知っているな』
「あぁ」
『あれが……もし、あのやり直しが、私の願いを、世界の拒絶反応だとしたら、どう思う』
「!」
來の左目が不安に翳る。
いつもの來らしくもない、狂気に呑まれる一歩手前のような不安定さと危うさ。
『やっと護れた、この日常を……タイムパラドックスだとかそんなものに壊されたくはないんだ。……今は、抜忍だとかそんなものよりも、その方が……怖い』
何度か迎えたオビトとの幸せな世界での最期を忘れても何巡もやり直した來にしか思い当たらない恐怖にオビトはそっと唇を噛んだ。
「……オレにもそれは、わからない。ごめんな」
『いい、いいんだ、ただの、懸念だから。気にしないでくれ』
「だがお前は現に不安がっている。それは事実だろう?良く言っているな、お前はこの言葉を」
事実の確認。それは來が口癖のように普段の会話でも使うものだ。
來は小さく頷いた。
「お前が怖がるのは仕方のないことだ。きっとお前のことだからオレの言葉では慰めにすらならんとも思う。……だがな」
來の前に立ち止まると腰を屈めて目を見つめる。
「オレはお前とここにいる。こうして一緒に歩いている。こうして……触れている。お前がオレに不安だなんて言うのはそうそう無いからな。オレはむしろ安心した」
すぐ一人で考え込んで、突っ走るんだもんな。
そう言いながら來を腕の中に閉じ込める。
「ほら、オレもお前も生きてる。……なら今はこれで良しとしないか」
胸の内側からたしかに感じる鼓動と温もりにトントン、と頭を撫でる。
『……うん……』
「(素直ッ!!)」
恐る恐る、伸ばして緩く腹に巻きついた來の腕が小さく震える。
「お前なら、オレたちなら、大丈夫だ。だろう?」
『うん……うん……大丈夫、だ』
自らに改めて言い聞かせるように聞こえた來の言葉に小さく笑いながらよしよし、と髪を指で梳く。
「ゆっくり息吸って、吐け。ほら、大丈夫だ。オレもお前もここにいる」
『……うん……』
「さて……疲れたんだろう?ほら、行くから掴まってろ」
ひょい、と横抱きにするとオビトは來の瞳を見つめる。
『わっ!?おい、オビト……恥ずかしいから下ろしてくれ……もう、大丈夫だから……』
「なんだ、抱えられるのは嫌か?」
『……やじゃないけど』
「あ、照れた」
『……。』
ぎゅっ……と照れるのを隠すように首に抱きついてきた來に微笑しながらオビトは足取り軽く駆け出した。
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