It's impossible!!√A

□軌跡
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次の日は食べ歩きながら見て回った旧宿街にもう一度行った。
賑やかになっている通りを見ると
『あぁ、朝市やってるな』
「本当だ。なかなか観光地では見かけんが……珍しいな」
港から直行で来たという獲れたての魚類、野菜が売っている。
『……なんか欲しいもんあるか?』
「いや、ないな。……鬼鮫に今度教えてやろう」
『どうせ買いに行くの、私達だけどな。……まあたまにはいいだろう』
「朝から買い物デート……」
『買い出しな。……海、近いんだな』
微かに感じる潮風の匂いに目を凝らすとオビトがあっちに少し見えるな、と呟く。
「ほら」
ひょい、と抱き上げて指差す方を見るとたしかに建物の隙間に見えている。
『……本当だな。少し行ってみるか?』
「いいぞ」
下ろしてもらうと手を引いて歩き出す。
『ここ来る前にも思ってたが、いつも私の歩幅に合わせて歩いてくれているよな』
「ん、そうか?」
たしかにだいぶゆっくり歩いてるか、と呟くオビトに來は小さく感謝した。
「……まあこうしてゆっくり歩くのは來と一緒にいる時だけだしな。たまにはゆっくり歩くのも悪くない」
『うん』
数分で海辺に着いた。
きっと夏場はそれなりに人が来るのだろう、海の家らしき店舗が点在しているが軒並み人気はない。
誰もいない浜辺の上、灰色の空には雲が立ち往生していた。
『冬の海は物悲しいな』
潮風に髪が暴れるのを気にせず、來は堤防を飛び越えて砂浜に着地する。
「まあな。……海なんて久々に来た」
隣に立ったオビトはぼんやりと寄せては返す暗い色の波を見つめる。
ぱしゃ、と控えめに音を立てて岩に砕かれる水の造形は何ということもなく平凡な冬の海だ。
静かに、波の音と鳥の鳴き声が虚しく響く浜辺を歩き回っていた來が歩み寄った。
『貝殻とガラス片みっけた』
オビトがその言葉で來の手を見るとところどころ茶色の筋の入った錆びたような紋様の白い貝殻やくすんではいるがまだ向こうを見通せる程度の透明感のある青や緑のガラス片があった。
「そういうの好きなんだな」
『うん』
思い返してみればブレスレットをプレゼントした際もこんなに綺麗なのは、と躊躇っていたしやはり少しアンティークな物が好きなのか、と訊けば
『……そう、かもしれない。ほら、あまり綺麗すぎると欲しがる奴多そうだし……少しぐらい、汚れてた方がいい味出すとかそういうのじゃないか?』
「そういうもんか。……お、これ綺麗」
オビトが拾い上げたのは小さく渦を巻いた不思議な形の貝殻だ。
『珍しいな……アオイガイ、じゃなかったか?』
「なんだそれ」
『実はこれな、タコなんだぞ』
「タコ?貝だぞ……?」
『しかもちゃんと合わさってる……』
「……そうだ」
オビトが千本を取り出すと器用に剥がしてみせた。
「ん、これやる」
『え、いいのか?』
「お揃い」
『ありがとう……大切にする』
キラキラと目を輝かせて手元のアオイガイの片割れを見つめる。
『部屋に帰ったら飾る。……綺麗な形だな……』
「なんだか移動する時みたいだな」
神威!と右目にあてがってふざけるオビトに來が小さく笑う。
『巻物に保存しておこう。壊れてしまうから』
「おう」
『……なんだかこうしていると……この世界にまるで私達2人しかいないみたいだな』
白い飛沫が岩に砕ける音を背に小さく呟く來にオビトが繋いでいる手を撫でる。
「……お前はオレと、この世界に二人きりになっても、嫌じゃないのか?」
『嫌な訳無いだろ。……強いて言えば私にしか目が向かなくて嫌われてしまう方が怖いが』
「嫌いになれる訳ないだろう?お前、意外と寂しがり屋だし、オレにしか甘えられない可愛い奴だもんな」
無言で目を伏せた來の黒髪が潮風に乱れてオビトの服を撫でる。
『……いつまで好きでいてくれるか、なんて、わからないものだからな。……私はきっと、あなたほど愛情深くなんかないから』
「ふふっ、言うな?お前の言う愛情がどうあれ、オレはお前の拠り所になれればいい……オレが守ってやる」
頭を撫でる大きな手にくすぐったそうに目を細めると安心したように小さく息を吐いた。
『それなら……私はあなたの傍らに、共に在りたいと、願い続けたい。どうか私を飼い殺してくれ』
「絶対に殺したりしない。一緒に、色んなところに行こう。離れちゃダメだぞ、許さないからな」
『ん……離さないで』
「は?可愛いがすぎる」
真顔で呟くオビトに來が小首を傾げて、異変に気がついた。
『……、……。』
「……?どうした?」
『……いや……その……』
もぞもぞ、と自分の胸元で俯いてなにかをしている。
???となりながら來のつむじをつつくと
『今一生懸命にやってるから邪魔すん……あ、さらに絡まった……どうしよ……』
「なんだ、どうしたんだ」
『髪……オビトの服に絡まっちゃった……(´・ω・`)』
どうやら潮風に吹かれていた折に器用にもオビトの着衣に絡まり、解こうとしていたのにさらに絡まってしまったらしい。
「あーぁ、こいつはひどいな……」
『ちょっと待ってろ』
そう言ったかと思えば來が髪を抜こうとしているのに気がつきオビトが慌てて止めた。
『こっちのが早いだろう』
「痛いし見たくないだろ!」
飾りボタンに引っかかっているのか、と気づいたオビトは躊躇いなくボタンの糸を引きちぎった。
『!?』
「よし、取れたな。痛かっただろう?よしよし」
『痛覚無いのに……』
「だとしてもダメだ、許さん」
むむむ、とオビトが來を見下ろすのでバツが悪そうに後ずさる。
『だ、だが』
「……來」
ぺちっ!
『っ!?』
「めっ!!」
デコピンされたことやら叱り方やら表情やらその他諸々が來に刺さる。色々、可愛すぎる。
『(この三十路、あざとい……!!)』
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