幼馴染み
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「その肉、まだ生だよ?」
そう言われて初めて、箸で掴んでる肉がまだ生なことに気づいた。
「あらやだ。つい待ちきれなくてぇ。」
あたしはそうひきつった笑いを浮かべながら、肉を再び網の上に戻した。
「どうしたの?名無しさんちゃん。ぼんやりしてるみたいだけど。」
そう言って人懐っこくソンミンさんは笑う。
ああ、この笑顔にどれだけ会いたいと思ったかわからない。
「いえ、少し寝不足で・・・」
「何、そんなに夜更かししてたの?だめだよ、夜遊びは。」
そう言って屈託なく笑う。
その笑顔が今のあたしにはまぶしすぎて、直視できない。
「ち、違うんです!あ、あの本を読んでて少し熱中してしまって・・・」
慌てて言い訳をする。
違います、本当はあなたじゃない違う男とキスしてました。なんて、正直に答えられるわけない。
ソンミンさんは、何も疑うことなくあたしの頭を優しく撫でる。
「名無しさんちゃんは勉強家だね。でも体だけは大事にするんだよ。」
この人の、こういったところに惹かれる。
あの大魔王とは違った、優しい甘いとき
めきをくれる。
あたしが欲しい愛とか恋とかってこういうものじゃない?
平穏で、穏やかで、簡単に1年後も5年後も、想像できるような、こんなのんびりとした愛。
そんなささやかだけどそれでも着実な、そんなものを求めていたんじゃないの?
ドンへとは真逆だ。
ドンへはいつも強引で、とてもめちゃくちゃでスリリングな、あたしには合わないものばかり押し付けてくる。
いや、恋というものは本来そんなものかもしれないけど。
あたしにはそんなスリルも強引さもいらない。
ただそこにある、不変で確実なものがほしい。