ルドヴィカの部屋

□勘 その2 食卓にて
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 「新しい遊び相手の
男の子の様子はどう?」

晩餐の席でお母様は妹にお聞きになった。

「ひ弱すぎます。
虫や蛙が苦手です。
花壇の隅っこを掘って
ミミズを溜めているのを見せてやったら
卒倒しそうになっていました。
あんな子と一緒に
釣りに行けるのかなあ・・・
先が思いやられますよ。
それに言葉遣いも女っぽいんですよ。
男のくせに『だって』
なんて、言うんですよ。
男は『しかし』ですよね、父上!?」


「これ」

と、お母様は妹を軽く睨んで、まず
「食卓で虫やミミズや蛙の話は
およしなさい」とたしなめた後に
おっしゃった。

「それは、あなた、仕方がないわよ。
ずっとお母様と
ふたり暮らしだったそうだから。
だから言葉遣いも、気も優しいのよ」

「しかし、僕は僕の剣の相手を
連れて来てくださるのを
待っていたんですよ。
それなのに、あの子は
剣なんて触ったこともないんです」

「それでは、あの子も
あなたのお相手として失格なのね?」

お母様が苦笑しながら妹に問うと

「そうですが
まあ、鍛えれば、いすれ
何とかなると思います」

と、皿の上の鶏の煮込みと
格闘していた妹は、少し迷惑そうに答えた。


「あら、どうしてかしら」

妹は口いっぱいに詰め込んだ食べ物を
ごっくんと飲み込んでから
大真面目な顔で

「勘です」

と言った。

お父様はさっきから
妹の話を可笑しそうに聞
いていらっしゃったが
慌てて横を向いて噴出してしまわれた。
そしてナプキンで口元を拭ってから


「今日会ったばかりなのに
どうして、その様なことが言えるのだね。
自分では直感だと思っていることでも
よくよく考えてみると
案外、根拠があるものだ。
どうして、そのように思うのか
考えてごらん」


と妹におっしゃった。

しばらく、妹は考えていたが


「そうですね・・・
しまいには足が縺れていましたが
弱音も吐かなければ
逃げ出しも、しませんでした。
根性だけはあるのだと思います」


と言った。

「あら、それはここを追い出されたら
いく所がないからよ」


「これ、ジョゼフィーヌや
そんなひどいことを
言うものではありませんよ。

あの子はお母様を亡くして
身内は、ばあやだけという
可愛そうな子なのです。
皆で労わってあげなければ。
それにしても、あんな可愛らしい子を
ひとり残して逝かなければならなかった
お母様は、どんなに
おつらかったでしょうね・・・」

と、お母様は涙ぐんでおっしゃった。

       勘 その3 につづく

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