「孔雀の羽団扇の行方」の部屋

□転ばぬ先の杖
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 「ドレスというのは
着心地が悪いものだな〜
息は半分しか出来ないし
腕もよく伸ばせない。

自分の足元が見えないのは
何とも心許ないものだなあ。
それにこのドレス、首も回せん。
無理に回したら擦り傷ができそうだ」



「少しの間ですから、我慢なさいまし。
これっ、壁にもたれるんじゃありませんっ
へんな皺が寄りますよ」



「でも、扇とか手巾とかを、床におとしたら
どうすればよいのだ?
ちょっとでも下を向いたら
頭が重くて、そのままつんのめっていって
しまいそうだぞ」



「まあ、お嬢様ったら
そんなことを心配していらっしゃるのですか?
殿方が喜んで拾って下さいますよ。

逆に、夢にもご自分で拾おうなんて
なさってはなりませんよ。
そんなそぶりでもなされば、お嬢様は
貴婦人失格です。

お嬢様は、ただ、近くの殿方に
にっこり微笑んで
目配せなさればよろしいのです」



「にっこり微笑んで、目配せ!?・・・
わたしに出来るかな?」



「一度、練習なさいませ」


「こうか?」



「お嬢様、それではまるで
目にゴミが入ったみたいですよ!!
それに顎をしゃくってどうするんですかっ!!
顎は引くんですよ!!
もうっ、ばあやが一度お手本を
お見せしますからね。

よろしいですか!?
まず、これはと思った殿方を
じいっと見つめる。


ゆっくり微笑みながら
床に落とした物に視線を落とす。
次に再び殿方の目を見つめて
にっこり微笑みながら顎を引く。


ほれ、もう一度やってごらんなさいまし」



「腹がへったらどうしよう?
お菓子を食べたくなったら?
それも、微笑んで顎を引いたら
わかって貰えるかな?」

「・・・
普段召し上がらないでしょう?」

「いつもは、やせ我慢だっ!!
軍服姿で苺のタルトなんか
頬張っていたら間抜けだろっ


だから今夜はしっかり食べてやるぞっ
て思っていたんだけれど

やっぱり、このとんでもないコルセット
嵌めてちゃ、詰め込めないよな・・・

それからもし、靴が脱げたらどうしよう?
それから、背中が痒くなったら?」



「やっぱり
・・・アンドレをお連れになりますか?」


             2012.11.20 



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