末裔たちの部屋

□沙漠 その3
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 あっけにとられている俺をその場に残して
彼女は、そのまま、足早に去って行った。


「なかなか綺麗な女だろ」


気がつくと、俺と同年輩らしい大柄な男が
側に立っていた。


「俺はニコラス
ロジスティシャンだ。
電気関係が専門だがな。
まあ、ここでは何でも屋扱いだ。
よろしくな」


北イタリアあたりの出身だろうか。
金髪とがっしりとした顎の
ちょっと粗野な感じが、しなくもないが
まあ、ハンサムの部類に入るだろう。
感じも悪くない。

俺たちは握手を交わした。



午後は、そのニコラスと一緒に作業をしたり
コーヒーを飲みながら
俺は少しづつJ・・・医師の情報を
聞き出していた。



「実はな、彼女の舅は
脚本家のA・G・・・だ」


あの『偉大な』と呼ばれる!?


「それから、義兄は映画プロデューサー
そして彼女の夫はF・G・・・だ」


「実業家の!?」


翻訳出版会社や、美術品の輸出入会社
宣伝広告会社や経営コンサルタント会社など
幾つもの会社を手掛ける若き実業家の名前は
俺も耳にしたことがある。



「そう、かのG・・・家の嫁で、その
一員だったのさ。

彼女はここでは旧姓を
名乗っていたんだが・・・

俺の彼女な
ジャンヌって言って
パリでエステを経営しているんだが」


ニコラスが自慢の彼女の写真を
自分の携帯で見せてくれた。

なるほど、黒い髪と黒い瞳の
ちょっと人目を引きそうな
凄みのある美人だった。

高そうな服を着て、高そうなバックを持って
立っている。
羽振りもよさそうだ。


「ジャンヌは頭がいいんだ。
それに、職業柄かな
一度見た、ちょっと目立つ女の顔は
忘れやしないし、有名人のゴシップにも
やたら詳しいんだが

俺に会いに来たとき、ひと目見て
あの女医の正体を見破ったんだ。


まあ、俺たちスタッフの中にも
もう気づいているヤツは、いると思うがな
恐らくは、本人が隠し果せているつもり
らしいので、気を使って、気がついていない
フリをしているのさ」


ニコラスは
美人で服の着こなしが巧くて
頭が良くて記憶力が良くて
有名人のゴシップにやたら詳しい
ジャンヌのことが
どうやら自慢でしょうがないらしい・・・


・・・まあ、人それぞれだな。



「つまりあの女、有名人だったのさ。
名流夫人、セレブ
ファッションアイコン・・・

そういう風に呼ばれる類の女だったんだ」


と、ニコラスは言った。



        沙漠 その4 につづく

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