末裔たちの部屋 2

□雑木林 その2
1ページ/1ページ

 カトリーヌは飛び切り顔立ちが
整っているとか華やかというわけでは
ないと思けれど
クロードを虜にしているという自信が
少し肉付きの良くなりかけた娘らしい
身体のまわりに
見えない靄のように漂っている。



 父親同士が学友で
家族ぐるみの付き合いをしていたせいで
夏のヴァカンスや
クリスマスから新年にかけての休暇には
僕らG・・・家の息子たちは
大抵、J・・・家の娘たちと一緒に
過ごした。


子どもたちが鬼ごっこやサッカーに
興じている間
大人たちはそれを遠目に眺めながら
大人たちだけの会話を愉しむことが
出来たし
家庭教師も使用人たちも息抜きをすることが出来た。
なにしろ、子どもたちも退屈しないで
すんだ。


しかし、その年の夏は、すこし様子が
違った。

隣り合って建つG・・・家のヴィラにも
J・・・家のヴィラにも
それぞれの親たちは現われなかった。

彼らはそれぞれの長男長女に・・・

G・・・家の長男のドミニクと
J・・・家の長女のアンヌ・マリは
それぞれ成人して
ふたりは婚約を交わしたたばかりだったが

そのことが十分、下の弟、妹たちを
監督する義務と能力がある証拠だと
言わんばかりに、親たちはふたりに
僕ら年下たちの面倒を見るように
言いつけて、それぞれが夫婦水いらすの
休暇を愉しむ為に旅立ったのだった。


しかし、本当の親たちが不在であると
いうことに加え、僕らの間にも
大きな変化が起こっていた。

総出で鬼ごっこやサッカーに興じる
代わりに
自然に気の合うもの同士に分かれて
一緒に過ごすようになっていた。


まず、両家の長男と長女が

それからJ・・・家のクロチルドと
オルタンスはそれぞれ3軒先のヴィラの
アメリカ人の兄弟と

二番目の兄のジェラールは
J・・・家のジョゼフィーヌと

三男のクロードは
J・・・家のカトリーヌと

それぞれ一緒に過ごしたがった。


そして
J・・・家の女の子たちが

「夕食に戻らない。
G・・・家で食べてくる」

と電話を掛ける。

G・・・家の男の子たちが

「遅くなったので
J・・・家に、このまま泊まる」

と電話を掛けてくる。

それぞれの保護責任者である
ドミニクとアンヌ・マリがそれを許した。
何よりも責任者たちが
ふたりだけでどこかへ姿を消したがった。
その態度を習うかのように
使用人たちの態度もしだいに甘く、しかも
不注意でぞんざいなものになって行った。


別荘地の中は24時間カメラで監視され
警備員が巡回しているから、という安心も
あったのだろう。


僕自身は、ひとりで本を読んだり
ピアノを弾いたりして過ごすことが
多かった。
そうではないときは
3歳年上の16歳のクロードと
一緒に居ることが多かった。

それは、ドミニクが
四男のルイにはジェラールを
末っ子の僕にはクロードを担当に
任命したせいもあったけれど
ジェラールとは違ってクロードは僕を快く
引き受けてくれた感じはあったし
たしかに5人兄弟の中では
一番、気が合った。

しかし、本当の所は
クロードはカトリーヌと二人きりに
なりたがっているのは解るので
だから大抵、誰も居ない居間のピアノを
弾いたり
寝室か庭のベンチで本を読んでいる。


むしろ、放っておいてくれるのは
ありがたかった。
女になりかけた少女と一緒に
居るのはどうにも気詰まりだった。


今、一緒にテラスに置かれたイスに坐って
オレンジエードを飲んでいるのは
「一緒に飲みましょう」
と、カトリーヌがわざわざ呼びに
来てくれたからだった。

やはり、カトリーヌは面倒見の良い
やさしいお姉さんだったし
そして、僕は素直な子どもだったから。


     雑木林 その3 につづく

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ