末裔たちの部屋 2

□雑木林 その5
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 僕と彼女は急速に親しくなった。

休暇には途端に朝寝坊になる僕が
早起きをするようになって
彼女と一緒に走るようになったものだから
兄弟たちは呆れていた。

僕らは庭を走るだけではなくて
湖の周りにまで足を延ばすように
なった。

彼女はだいたい自分で立てた日課に従って
生活をしているようだった。
彼女の部屋は、まるで
最小限のものが所定の位置に収まっている
あの軍人か船員の部屋のように
片付いていて
本棚には参考書が並び
ホワイトボードには日課や
模擬試験の日程や
休み中に仕上げるレポートや
読み上げる予定の本などが
箇条書きにして書いてあった。


「祖父と暮していた頃からの習慣さ」


「ストイックだな。
まるで士官学校か海洋学校の生徒だ」


と僕が揶揄すると


「ブティックやらエステ通いに
半日費やす姉さんたちだって
じゅうぶんストイックだよ。
わたしだっら、そんな暇があったら
昼寝でもしている方がいい」

と言って彼女は笑った。


しかし、彼女の化粧気のない
明るい肌の色や
金色の巻き毛や金色の産毛が光る
うっすらと日に焼けた長い手足には
カトリーヌがよく吟味して選んでやって
いるらしい、ラコステのポロシャツに
白いショーツだとか
アバクロのスウェットの上下だとか
そういう何気ない格好が良く似合ったし
皆で外に食事に行くときなどには
ごくあっさりとした
ホルダーネックのサンドレスや
タイシルクのパンツスーツに
踵の高いサンダルを履いて現われたけれど
そういう少し背伸びをした格好も
やっと少女になりかけた清潔感のある
身体に良く似合って
不思議に誰よりも洗練されて見えた。


だけど、僕は明るい日差しの中でいる
彼女が、一番、綺麗だと思った。
素のままのときが一番綺麗な
そういう恵まれた女の子なのだろう。


僕らは一緒に走ったり、自転車に乗ったり
湖で泳いだり木陰で勉強したりした。
一緒に昼食のオムレツを作ったり
ときにはサンドイッチとワインを持って
湖の畔でピクニックをしたり
ときにはお洒落をして
町へ遊びに出かけたりもした。


しかし、ある日を境に


僕らの平穏だった日々に
微妙な変化が起きはじめた。


僕とO・・・が、
久しぶりに少しお洒落をして
町のステーキハウスで昼食を食べたあと
このまま帰るのもつまらない
映画でも見に行こうか、などと話しながら
店の前でぶらぶらしながら
運転手を待っているときだった。


若い男たちを乗せた
赤いコンバーチブルが猛スピードで
近づいてきたかと思うと
口笛や卑猥な声を上げながら通り過ぎて
行った。
その男たちの中に
憎悪に満ちた目をこちらに向けてる
女の子が居た。


      雑木林 その6 につづく

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