末裔たちの部屋 2

□雑木林 その6
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 一緒に走ったり泳いだり
木陰で勉強したり
一緒に昼食作ったり
ときには、サンドイッチとワインを持って
湖の畔でピクニックをしたり・・・


そんな静かで平穏な僕らの生活に
微妙な変化が起きはじめた。


エマニュエルがこの避暑地に
現れてからだ。


エマニュエルは僕と同じ学校で
華やかな顔立ちと
それらをいっそう引き立てる輝くような
褐色の肌と黒髪
それから、僕らみたいな年頃の男だったら
10人中9人くらいは目を引きつけられず
には居られないような、すばらしい肉体の
持ち主だった。

母親が有名な女優なので
彼女もすでに2〜3の映画に端役で
出ているらしかった。
彼女は、いわば、学校の女王様的
存在だった。

傲慢で奔放な性格で、周囲はすべて
自分の崇拝者だと信じているタイプだ。

そのくせ寂しがり屋らしく
取り巻きに囲まれていないといられない
ようで
やたら姉御肌を気取りたがるところもあり
気前よく金品を投げ与えてくれるので
男の子も女の子も彼女の取り巻きに
なりたがるのだと、聞いていた。


しかし、僕は、取巻きを引き連れて歩いて
いる女の子になんて、全く興味がないし
その取巻きに加わるのも
真っ平ごめんだ・・・

・・・というか
何より気にも留めていなかったし
視界にも入っていなかった。
だから、女王様をわざわざ無視している
などという気は、さらさらなかったのだ
けれど
女王様は、そうは受け取らなかった
らしい。

彼女は、僕を目の敵に、し始めた。


大勢の取り巻きを引き連れてすれ違う
ときに、僕を睨みながら、わざと
隣にいるやつに何か耳打ちをする。


僕が教室を出たとたん嘲笑が起こる。


あらぬ噂を立てて、その頃、付き合い
始めていた女の子との仲を裂いた。

彼女にそのようなことをされる理由が
全く解らない。
僕は目立つことが大嫌いなんだ。
特に、子どもじみた馬鹿馬鹿しいことで。

だから素知らぬフリをして
我慢していたけれど。


「それはだな
おまえがG・・・家の一員だから。
それから、絶世の美少年だからだろ」

とドミニクがからかうように言った。


「僕が?」


「それに、うちは一応、世間からは
金持ちだと思われているしな。
どうして、そう思われるのかは
俺にもわからのだがな、年中金策に
駆け回っていると言うのに」


ヴァレンティノのスーツを着て
アルファロメオで金策に駆け回るなんて
ヘンな気もするけれど、しかし


────商売人はな
たとえ内情は火の車でも
羽振りが良いと世間に思わせて置かないと
いけないのさ。
これも、仕事のうちなのさ。
考えても見ろ!?
失うものが何もない相手と
取引しようなんて誰も思わないだろう!?


というのが、ドミニクの口癖だった。


ドミニクは


「まあ、取り巻きに囲まれていても
その肝心の、一番の大物に無視されて
いるので
侮辱されているように思うのだろう。
まあ、所詮、まだ子どもさ。
そのうち、嫌がらせにも飽きて止むさ」


と言った。

追従してやらないと
無視されていると思う・・・

彼女がそういう性格だという事は
僕にも解っていたけれど
僕は彼女に対して興味が湧かないのだから
どうしようもなかった。
そればかりか、彼女は、僕の学校生活を
憂鬱にしている象徴のような
ものだったから
だから、夏休みに入ったとたん
すっかり忘れていたのだった。


エマニュエルは若い男たちに囲まれ
華やかに笑いながらも
その鳶色の目をルビーのように憎悪に
輝かせて、こちらを見ていた。


嫌な予感がした。


    雑木林 その7 につづく

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