末裔たちの部屋 2

□雑木林 その9
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 「何とか言ったらどうなの?」

エマニュエルが苛立った声をあげた。


あ・・・いけない・・・
ぼんやりしていた。


「ああ・・・ごめん・・・
あの・・・エマニュエル
悪いのだけれど
実は、急に用事を思い出してしまって
申し訳ないのだけれど
また、改めて、ご挨拶に伺うよ。
じゃあ」


出来るだけ、素っ気無く聞こえないように
言って、その場を立ち去ろうとしたときに

エマニュエルが叫んだ。


「どうして、わたしの気持を
わかってくれないの?
あなたのことが大好きなのに」



・・・え・・・!?



「何とか言ったらどうなのよ!!」


「では、どうして、今まで
僕に嫌がらせをしてきた?」


「あなたを振り向かせたかったから」


それは、ちがうだろう!?


────「足元に
ひれ伏せさせたかったから」

だろう!?
自分の圧倒的な美しさで。



まあ・・・そんなことは、どっちでも
いいのだけれど
はて、いったいどうしたらいいのだろう
女王様のプライドを傷つけないように
この場を立ち去るには・・・


僕は、息を吸い込んだ。


「エマニュエル、とても光栄だよ。

君は、誰もが振り返るような
綺麗で魅力的な女の子だよ。

それに、まるで女王様みたいだし
君にちょっと微笑みかけて貰えれば
大抵の男は、もう、天にも昇る心地に
なるだろう。
それを最高の栄誉だと思うような崇拝者を
大勢引き連れて歩いているのが
最高に似合う女の子だよ。

でも、僕は、どうやら・・・
最初から
その栄誉から降りてしまいたいと
思うような、小心者らしいんだ」


言い終わる前に、エマニュエルは
駆け出していた。

そして僕の視界から見えなくなった。


僕は、ほっとして
赤に白の水玉模様の茸の上に
腰をおろした。

このおかしな庭からもやっと抜け出せる。


そうだ・・・
せっかくお気に入りのシアサッカーの
ジャケットでお洒落をしてきたのだから
O・・・を誘って出かけるってのは
どうだろう。


僕は携帯を取り出し
O・・・に電話を掛けた。



────フローリアン!?どうしたの?



「今、ひとり?」


────うん。


「何しているの?」


────な〜んにも。
ひとりで退屈だったから
ベッドに寝転んで音楽を聴いていた。



「よかったら、これから町に出かけない?

そうだなあ・・・

『ルネッサンス』でケーキを食べてから
アウトレットを回って
夕食を食べて帰るってのは?」



────いいねえ。
でも、今、およばれじゃなかったっけ?



「僕の方の用事は、今終わった。
ドミニクは、まだみたいだけれど
ひとりで抜けてきたんだ。
ドライバーには僕が電話して置くから
君も支度しておいでよ。
あの、このあいだ着ていた
ひなげし色のドレスがいいな。
門のところで落ち合おうよ」



────わかった。急いで支度するから
少し遅れても、待っていて。



「うん。じゃあね」


僕は電話を切った。


   雑木林 その10 につづく

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