末裔たちの部屋 2

□雑木林 その10
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 「門のところで落ち合おうよ」


────わかった。
急いで支度するから
少し遅れても、待っていて。


「うん。じゃあね」


僕は電話を切った。

そして、そのまま振り返らずに
ヴィラの庭を抜けると
彼女との約束の場所に向かった。


僕は、雑木林の中の細い道を歩きながら
O・・・のことを考えていた。



────僕が「ひとり?」って聞いたら
彼女は「うん」って言った。

そして僕が
「何しているの?」って聞いたら
「な〜んにも」って言ったっけ・・・



「ひとりで退屈だったから
ベッドに寝転んで音楽を聴いていた」


それは、女王様なら絶対言わないような
台詞だ。

女王様はいつも誰かに取り巻かれ
ご機嫌を取られていて当然だから
ひとりで退屈しているなんて
絶対認められないことだろうさ・・・

ふふ・・・
僕は、つくづく女王様タイプが
苦手なんだな・・・。



僕はひとりで苦笑してしまった。


────ところで、僕は彼女に
「綺麗だ」って
言ってあげたことはあったかしら。


────この際、一度
キチンと言っておく必要があるのでは
ないかしら。

まだ、僕以外の男が、彼女に「綺麗だ」
なんて言う前に。



────そうだ。
彼女が好きなレッドヴェルベットケーキ
を食べてお茶を飲んだら
ふたりで何か贈り物を買いに行こう。
「フォリフォリ」で
まだ13歳の女の子に相応しいような
小さな指輪か、細いネックレスを
選んであげるっていうのは
どうだろう・・・


そんなことを考えていると
今までに感じたことのないような
うきうきした気分になってきた。


鼻歌を歌いながら雑木林の中を
歩いていると
いきなり悲鳴が聞こえた。


そして、木立の中から
派手な色のパーカーやTシャツ姿の
若い男たちが、バタバタと慌てた様子で
飛び出して来たかと思うと
そのまま駆け去った。


いったい何事だろうと立ちすくんでいると


木立の中から


彼女が髪を乱し、額から血を流しながら
よろよろと現われた。


一瞬、心臓が凍りついたかと思うほど
驚いた。


ひなげし色のサンドレスの肩口は裂け
泥だらけになっている。



「O・・・!!」



駆け寄って行って抱きしめると
手足は氷のように冷たくなって
身体は強張っている。
急いで、上着を脱いで彼女を包んだ。


頬は青褪めてはいたけれど


「4人の男に襲われそうになった」


意外に口調はしっかりしていた。


すぐに数人の警備員も駆けつけてきた。



     雑木林 その11 につづく

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