末裔たちの部屋 3

□砂嵐 その4
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 「・・・でも、また・・・
3人で食事しようよ・・・
今度こそ、わたしのおごりだ・・・」



彼女は電話を切った。



そして携帯を握り締めたまま放心したように
立っている。



恐らく、相手は男だ。


恐らく、前に俺たちを拉致して
解放してくれたときには
彼女と友達同然になっていたあの髭面の男だ。
ときどき電話で話しているのは知っている。



彼女は、窓の外を眺めながら
放心しているように見える。



「彼女が、男と何を話していたのかなんて
全く気にならないし、嫉妬も感じない」


と言ったら、嘘になるけれど
彼女が誰と友情を結ぼうとしたとしても
出来れば嫉妬はしたくはないし
詮索もしたくないと思う。


もっと若い頃は、俺も人並みに
付き合っている女の子が
他の男と話しているのが気になったりしたもの
だけれど

あれは・・・

若さというものが持つ特有の飢えや焦り

つまり、まずしさだったのかもしれない。

逆に、女の子からも


「わたしが誰と話していようが
そんなこと、興味がないのね。
本当は、わたしになんか興味ないんでしょ!!
たいして、好きでもないんだわ!!」


なんて言われたこともあるけれど
あれも、若さというものが持つ特有の
焦りと不安と虚栄心だったのかも、しれない。


だけど、今は少し、違った気持でいる。


「俺が愛していても、愛していなくても
彼女は彼女だし

隣に誰が居ても
たとえ彼女が人ごみの中に紛れていても
彼女は彼女だ。

俺が愛していても、愛していなくても
彼女は別に変わらない。


ただ俺にとって、大切なことは
俺が、彼女を愛しているってことだけ。

そんな澄んだ広い心で、女を愛したい・・・」


いつの間にか、そんな風に
考えるようになっていた。


そして気がつけば


「愛に伴う情熱というものは

小説やお芝居の中のそれのように
いつも自由奔放で荒々しいものだとは
限らないのではないのだろうか。

箪笥の引き出しの奥のような
深く目立たない静かな場所にだって
しっかりと、息づいているものでは
ないのだろうか・・・」


そんな風にも、思えるようにもなっていた。


そんな風に思えるようになったのは
何故だろう。


俺ももう若くはないってことだろうか・・・。


それとも、あの18世紀の恋人たちの生き方に
触れてからだろうか。




         砂嵐 その5 につづく

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