末裔たちの部屋 4

□伝説 その4
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 「まあ古い武器や甲冑の群れを眺めていると
落ち着くなんて
自分でも何だかヘンだとは
思っているのだけれど・・・
軍人だったお爺さまの影響かなあ・・・」



「さあ、そろそろ行こう
ドミニクを待たせているよ。

そのドレス初めて見せて貰うね
すごく素敵だ」


コートを着せ掛けてやる前に
象牙色のタイシルクのカクテルドレスを
褒めた。

ごくあっさりとしたデザインだけれど
細い金色のブレードで縁取った襟元の
カットや袖の形に
少しだけ中世風の意匠があって
ただ透き流しただけの金色の巻き毛や
古典的な顔立ちを一層、引き立てている。


「ちょっと変わったデザインだよね。
トルコのデザイナーで、ええっと・・・
何て名前だったけ・・・」


「『ジャンス・ヤロワ』かな?」


「そうそう・・・さすがフローリアンは
詳しいねえ・・・」


「では、オダリスクを意識したデザイン
なのかもしれないね
ロマンティックだけれど甘すぎない。
O・・・にぴったりだよ」


「そう?自分ではなんというか・・・
ぶりっこじゃないかと思ったのだけれど
カトリーヌが言うにはね

『婚約者として一緒に招待されたのならば
これくらいでないと』

だってさ。
真珠のネックレスまで貸してくれたよ」


彼女は照れたように微笑んでいる。


「大丈夫、似合っているよ
どこに出しても恥かしくないような
清楚で内気そうなお嬢さんだよ
大股歩きと、その男の子のような
口の利き方にさえ気をつければね!!」


「意地悪!!」


彼女は媚を含んだ目つきで僕を睨んだ。

そして、ふいに
両方の腕を上げてを首の後ろに回すと
手で項の髪をすくい上げた。



アナイスアナイスが香った。



象牙色の絹のドレスが
皮膚の上を滑って
足元にストンと落ちた。


そして若い娘らしい
お椀を並べて伏せたような形の良い乳房
薔薇の花びらを置いたような乳暈
小さな臍、白く滑らかな下腹部の
雪花石膏のダフネ像のような肢体が
僕の目の前で
百合の香りを放ちながら
恥かしげに、しかし誘うかのように
静かに息づいている。



「・・・痛っ」


「・・・え・・・」


気がつくと、項に両腕を回した格好で
服を着たままの彼女が立っていた。



「・・・どうしたの?」


「ネックレスの留め金に
髪が絡みついて引っ張られて・・・」


「大丈夫?」


「大丈夫、今取れたから」



────僕は、よく白昼の夢を見る・・・。



「ところで今日の演目は?」


「・・・ええっと・・・

『ルチア』だよ」



             伝説 おわり

              2017.6.12

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