ルドヴィカの部屋

□ルドヴィカ 前編
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 「お前さんのような器量よしは
さぞかし男が放っておかないだろう」


などと、言われることがあるけれど
わたしはちっとも嬉しくはない。

ふしだらな娘だなどと
噂を立てられるのはまっぴらだ。
身持ちの堅い娘だと言われたい。
父は田舎で警察官をしている。
わたしは堅い家庭で育ったのだ。


ご奉公の話は、従姉妹のブリジットが
持って来てくれた。


「作法が身につくし、衣食住には困らない。
こつこつ給金を貯めれば、嫁入り支度も
自分で整えられるわよ」


子沢山の我が家には、願ってもない話だった。


「将軍様のお家らしく、実に堅実って感じね。
そのくせ旦那さまは、御隙をやるのは嫌い
と言う方だから、奉公人はいつの間にか
年寄りだらけよ。

それに旦那さまもお嬢様もお留守がちだし
奥様もおっとりとして、お優しい方だから
みな気楽に働いているわ」


ブリジットは、田舎にいたときは
小太りで、鈍重そうな娘だと思っていた。
それが今では、すっかり綺麗になって
しゃべり方まで早口になって
表情や立ち振る舞いまで
都会風に垢抜けている。
王様のお膝元で暮らすと
こうも変わるということかしらん。


「それから
奥様は一見おっとりした方だけれど
5人のお嬢様方を手元で育て上げて
嫁がせただけあって
何でも手際はよろしいの。

今でもお嬢様方の肌着類は
ご自分で仕立てられるし
刺繍やレース編みの腕前は
玄人はだしでいらっしゃるわ。
5人のお嬢様方を育てられたものだから
お側に若い娘がいないと
かえって物足りない気が
なさるのかもしれないわね。
ルドヴィカもきっと
可愛がっていただけるわよ」


「お嬢様は6人だと
伺ったような気がするけれど」


「そうなのよお・・・
末の6番目のお嬢様だけが
トウがたってしまっていて
目下旦那さまの悩みの種
といったところかしら。

でも将軍家の跡取りにする為に
男として育てられたという
変わったお育ちの方だから無理もないわ。
まあ、そのうち適当な婿養子でも
おとりになるのでしょうよ。

でも、すごくお綺麗で
底意地の悪いところなど、まるでない方よ。
この方も、軍人だから
日中はあまりお屋敷にはいらっしゃらない」


「まあ、軍人のお嬢様!?」


 旦那さま方には
晩餐の席に着いていらっしゃるときに
紹介された。
本当だ。

あんな美しい人、初めて見た。

トウが立ってしまった軍人のお嬢様だなんて
どんな猛々しい大女かと想像していたのに


まるでナルシスが
ごはんを食べているみたいだと思った。


美少年のような華奢な姿の
冷たく整いすぎて
かえって寂しいような顔立ち
と言ってもよい程なのに

その引き締まった唇に笑みが浮かんだとたん
綺麗な歯がこぼれ出て、白い花が開くような
確かに女の人の顔になる。

世の中には
不思議な人もいるものだと思った。



          ルドヴィカ 後編に続く

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