ルドヴィカの部屋

□勘 その1 姉妹
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 「ねえ、この菫色の木目織と
黄色の綴れ織どちらが似合うかしら?
このデザインだったら、やはり
黄色の方かしら?」

薔薇色、菫色、杏色、若竹色
ミモザの色・・・・

よく仕込まれた器量良し揃いの売り子たちが
目の前で次々に反物を広げて行く。
そして、その布と分厚いデザイン帳とを
突き合わせて眺めていたわたしが
隣に坐っている妹に顔を向けると彼女は
有らぬ方を向いていた。

「もうっ」

わたしは思わず、かっとなって
妹の肘を突いた。

「えっ・・・ああ・・・
きっとどちらもお似合いになりますよ。
両方、仕立てさせれば?」

「両方とも欲しいって
言っているわけではないの!!
どちらがわたしに似合うかしらって
聞いているんじゃない!?
もう、あなたったら
女心ってものが解ってないわ!!
それに久しぶりに
片田舎から出てきた姉の為に
もう少し真剣に相談に乗ってくれても
よさそうなものだわ!!」

「わたしに衣装の相談をなさる方が
間違っていますよ」

売り子たちは興味深げに
そっとわたしたちを見ている。
知らない者にわたしたちは
どのように映るだろう?
貴婦人と若いツバメ?
でも、顔立ちがどこか似ているから
姉と弟か、せいぜい仲の良い
いとこ同士ってところかしらね。
でも、道行く人が振り返るような
美青年を連れて歩くのは
いい気分ね。


「昔は、よく言ってくれたじゃない!?

『それはジョゼフィーヌには
ぜんぜん似合わない。こっちがいいよ』

って
あなたは、いつもねたましいほど
自信たっぷりに言ってくれたわ」

「そうでしたっけ」

「そうよ。わたしが理由を聞くと、あなたは

『そんなの勘だよ』って言うのよ。

でも、わたし、どれを選べばよいか
解らなくなったときはお姉さま方でもなく
お母様でもなく、あなたのその勘に
頼っていたのよ」

「へえ・・・
わたしは覚えていませんが・・・
しかし、我ながら鼻持ちならない
子供だったんですね」

「でも、よく聞いてみると
ちゃんと理由があるのよ。

『この布って、庭の池の濁ったところに
棲んでいる魚の鱗みたいで気持ち悪い』とか

『木苺のアイスクリームと
同じ色だから綺麗』とか

『この石、紫陽花みたいな
優しい色だから』とか

でも、あなたの意見を聞いて
決めたドレスや装飾品は不思議と長い間
お気に入りだったわ」

「そう言われてみれば
そんなこともあったような
気がします・・・。
では、いつも間にその勘が
鈍ってしまったのかなあ
菫色と黄色のどっちが良いかなんて
相談されても
今では、さっぱり解りませんよ」

「それは困ったわね」

わたしたちは顔を見合わせて
笑った。

        勘 その2 につづく

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