奉仕部

□依然として彼らは噛み合わない。(はやはち)
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ベストプレイスで昼メシを食う安らぎ。 臨海部に位置するこの学校は、お昼を境に風向きが変わる。 朝方は海から吹きつける潮風が、まるで元居た場所に還るように陸側から吹く。 この時間が俺は嫌いじゃない。 ビニール袋から焼きそばパンを取り出し、巻かれているラップを剥がして、勢いよく頬張った。
「美味い」
今日はツイてる。通学ルートの住宅街の一角に静かに佇んでいる住居軒パン屋の店。そこで不定期に販売されている千葉の食材をふんだんに使った千葉限定(いや、地域限定かな)の焼きそばパン(ちょっぴりお高い。てへf^_^))を見事手中に収める事が出来たのだ。これも全ては俺の日頃の行いの賜物… いえ、はい分かってます。白状します。 今日の朝食、可愛い小町が お兄ちゃんの為に用意してくれた料理の中に入っていたトマトを隙をみて ゴミ箱の妖精にイリュージョンしていただいたのだ。ヒャッハー! 勿論 その後、小町様から ドラグ・スレイブばりのお叱りをうけました。トホホ… 食べ物を粗末にするなんて ダメ、絶対!

× × ×

「美味い」
噛む程に食材の絶妙なハーモニー。ベストプレイスで幸せを噛みしめながら頬張る至福のひととき。
「美味い」
「そんなに美味いのか?」
咀嚼中に突然話しかけられるという不意打ちを食らい、驚いた拍子に貴重な最後のひと口を飲み込んでしまった。 何してくれてんの、このクソイケメン!
「比企谷?」
何の反応も示さない俺を葉山は不思議そうに見つめてきたので 微妙に視線を逸らしながら(おいおい、あんま気安くすんなよ。友達なのかと思っちゃうだろ)と 心の中で呟きながら「おう、スペシャルな味だ」 そういいながら、ラップを丸めてビニール袋へ放り込んだ。
「そのスペシャルは 何処で買ったんだ?」
「教えない」
即質・即答。はい、終了。 バイバイキーン。
「じゃあ せめて、どんな味なのかおしえてよ」
は?焼きそばは焼きそばでしょ。スペシャルとは言ったが、焼きそばパンがフォッカチオの味してたらおかしいでしょ。それならガムシロップかけて食うわ。
「そんなに食いたきゃ購買部行けよ。まだ有るかもしれないし。 もっとも スペシャルな味ではないだろうけどな」
吐き捨てると、俺は自分の腰元に置いてある紙パックのコーヒーへ手を伸ばした。すると、葉山は伸ばした俺の手首を掴み、同時に もう片方の腕を俺の腰へとまわし、強引に引き寄せた。
「ッ…?!」
突然の出来事に目を見開き、俺はただ ぼんやりと葉山を見つめた。
「それじゃ、試食させてもらうね」
言うや否や、葉山は顔を近づけ俺の唇を舐めとり、半開きとなった口の中に舌を差し込み、味わうように口内を弄り出した。
(…? ? ?? ~~~~~~~~~ッ!!!???)
やだ、何コレ超怖い。教えないって言っただけでこの仕打ち。 たすけてードラ○もーん、小町ーーー!
「んんっ…」
口内を犯すように舌を絡ませ、口と口の間を行き交う攻防戦を繰り広げる。
「…はっ …ャ… 」
目を開くと、目の前の葉山と目が合う。俺にキスする葉山の目は、男そのものだった。 やだ、カッコイイ…
葉山のキスはとても気持ち良く(何言ってんの俺///)、快楽に溺れてしまいそうになる(戻って来い、俺ー!) 身体に力が入らない…。そんな俺に気付いたのか、葉山は唇を開放し、そして 優しく包み込むように俺を抱きしめた。
「…何でこんなコトすんだよ。新種のイジメかよ。 だが、残念だったな。俺はハイスペック保持者だから この程度の嫌がらせでは屈しない。 俺を滅したいなら 天空の飛行石でも用意するんだな。それでも直ぐに滅びる事はない。なにせ、史上最強の“比企谷菌”だからな」
息も切れ切れになりながら、それでも平静を装って自分を見据える姿に、葉山は苦笑しながら「試食させてもらっただけだよ」と、やんわりと答えた。
「男にキスする事がか?」
「比企谷だから、だよ」
「キモイな」
「…ごめん」
「…お前、もしかして 俺の事 好きなの?」
俺の問には何も答えず、ゆっくりと立ち上がり「どうかな」と空を仰ぎみた。
否定もしない。肯定もしない。曖昧な返事。 いつだったか、雪ノ下陽乃は俺に云った『君は 自意識の化け物だね』と。 ならば、俺がそうなら、葉山隼人は 何の化け物なのだろうか。
ときおり、海の匂いのする風が吹き渡る。
「いい場所だな。俺も時々、ここで お昼をとりたい。良いかな?」
「好きにしろ。別に俺のテリトリーじゃないし」
「ありがとう」
おいおい、いきなり 必殺技『ザ・ゾーン』を出さないでくださいよ。そんな真にリアルが充実した者のみが持つ固有スキルを俺の前で発揮させないでくださいよ。ぼっちは誰にも迷惑かけない存在なんだから必要ないでしょ。この場所が気に入ったのなら俺はフェードアウトさせていただきますから。ぼっちは平和主義者なのだ。無抵抗以前に無接触。 ソースは俺。
「じゃあ早速だけど、明日一緒にお昼をしないか?」
「お、おう…」
しまった。うっかり返事をしてしまった。流石、上位カースト、クソイケメン。まさかギアスを使ってくるとは…。
斯して俺は、リア王 葉山と一緒にお昼をとる約束をしてしまった。 嫌だなぁ。あいつら(雪ノ下・由比ヶ浜)に相談してみるかなぁ。 いや、由比ヶ浜はともかく、雪ノ下の罵倒フィクショナリーを更新させる口実を与えるなんて、なんてお人好しなのかしら。まさにマザー・ヒッキー。ギネス登録間違いなし!

× × ×

「はあ」
嫌な記憶が蘇る。小学生になって4度目の頃。教室に入るとクラス全員が一斉にこちらに負の視線を射撃してきた。それでも自分の机に向かおうそして気付いた。足元に誰かが踏んだのであろう靴底の形をした犬の○○○が床に形成されている事に。そして、クラスの1人が「ヒキガエル、それ お前だろ。汚ねーからちゃんと拭いとけよ」と言って俺に掃除を強要してきた。 ちょっと待て。俺は今来たばかりだし、なんなら廊下を見てみろ。俺の通った後の廊下に○○○なんて着いてないし、上履きの底を見せてやろうか?それから大村、何でお前は来客用のスリッパを履いてるんだ?上履きはどうした。 しかし、俺の言葉には誰も耳を傾けず、クラスの全員が『そーじ、そーじ』コールを唱えはじめ、俺は目に大粒の涙を浮かべ、ただ いわれるまま そーじをはじめた。

× × ×

紙パックのコーヒーを一気に飲み干し、ビニール袋の中へと放り込む。葉山の言葉で気怠くなってしまった身体を奮い立たせるべく『大和お 好きだあああっ』と心の呪文を唱えて立ち上がって気付いた。空気に湿気が混じっている事に。 スマホで天気予報を検索すると、明日の降水確率は40%とのこと。微妙だ。 雨が降ればベストプレイスは使えなくなり、教室でメシをとらねばならなくなるが、教室なら葉山グループやクラスの連中も居るから 葉山と2人きりになることはない。
ニケさまぁ『アメフラシ』お願いしますう。
俺は指を畳んで手を合わせて組み、明日の大雨を願って空を仰いだ。
明日から第二ベストプレイス捜しか。忙しくなるな…

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